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そして俺はその千鶴の変化に全く気付いていなかった。
俺自身怪談話は嫌いではない。
何気なく着けていたテレビが怪談特番を始めた時は「おや? これは中々面白そうだぞ?」などと呑気に考えていたくらいだ。
正直に言おう、俺は千鶴がおばけが苦手だったのだということを全く知らず、まして気にも留めていなかった。
こういう番組はまず挨拶代わりにまず1つ再現ムービーか何かでホラードラマをやる場合が多い。
時間にして約5分ほどのチープな造りで嘘くさい出来栄えの怪談話だ。
テレビの中の芸能人達が大袈裟に驚き、叫び、恐怖を訴え司会の人が一纏めした所で番組が始まり、次々とB級怪談話を披露していく。
「あー、こりゃハズレだな」
ぼそっとつぶやいて千鶴を何気なく見るとテレビから背中を向けて膝を抱えるように丸まりながら文庫本を読んでいた。
ん? 心なしかさっきより近づいてきてないか?
「千鶴、それ面白いか?」
何となしに問いかける、すると声をかけた瞬間千鶴は「ひゃう!」と大袈裟なくらいびくっと反応した。
おや?
「あ! あ、お、面白いですよ?」
あたふたと取り繕ったような笑顔で文庫本を褒めそやす千鶴。
「そ、そうか」
なんかそれにしては……いや、まあ気のせいか。
番組はCMを終え、また怪談話を始めていく。
どれもどこかで聞いたような話やありきたりの心霊写真。
たまに「おおぅ…」と思うことはあっても心底怖いと思うエピソードはない。
まあこんなもんだよな。
と、つまらない感想を抱きつつふと千鶴を尻目に見ると、いつの間に持ってき
ていたのか薄手のシーツに頭から包まっていた。
「ち、千鶴? 寒いのか?」
「え!? ……い、いやー、まだちょっと肌寒いかもです! で、でも気にしな
いで下さい! 私なら平気ですから!」
「そ、そうか。」
そうか?
「千鶴もしかしてお前怪談話とかさ──」
そう聞こうとした瞬間、奇跡が起こった。
恐らくこの番組で一番の目玉だったであろうまさしく最恐のエピソードで、大袈裟なくらい恐ろしい霊のどアップと同時に、我が家の電気は停電した。
これには俺もビビる。「うお!」とか声出たし。
だが、千鶴の方はそんなレベルじゃなかったらしい。
「き、きゃあああああああああッッ!!!!」
暗闇の中千鶴の絶叫が闇をつんざいだ。