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「よ、おかえり千鶴」
「は、はいただいま…って兄さんこの匂い…」
帰ってきて早くも千鶴は気づいたようだ。鼻をくんくんとさせた後意外そうな
目で俺を見る。
「もしかして…作ってくれたんですか…?」
大きな瞳をぱちくりさせながら控えめに問いかける千鶴。
「ん。たまに早く帰ってきたからな、やってみたんだよ。部活お疲れ」
「この匂い肉じゃが、ですよね…。すごい…。よ、よく今晩のメニュー分かりま
したね」
「一目見ただけで何作りゃいいか分かるようになってた。お前がすげえんだよ」
「い、いえ! そんなこと!
…じゃなくて! ありがとうございます! すごく、嬉しいです、えへへ」
頬を赤らめながら嬉しそうに千鶴は笑った。
「味は保証しかねるぞ」
そんな千鶴を見て俺はやはりつっけんどんにそっぽを向いてしまう。
いや、だってそんなリアクション可愛すぎるじゃないですか…。
× × ×
その後、夕飯を久しぶりに2人で食べ終わり(肉じゃがは意外にも好評だった。やったNE☆)それぞれの時間を過ごす。
俺はリビングでやはり大して面白くもないテレビを見ているし、千鶴はソファで静かに文庫本を読んでいた。
そんな中、ゆったりとした夕食後のリラックスタイムを珍しく同じ部屋で過ごす俺達に
唐突に事件は起こった。
ちなみに今まで何故か言及しなかったが季節は初夏、夜は少し蒸し暑くなってきたくらいの7月初旬である。
脈絡のない話をしよう。
夏、と言えばイメージされるものは皆それぞれ違うと思う。
ある人は海、ある人は花火、またある人はかき氷やスイカなどと答えるだろう。
ともあれこの時期はそういう話題には事欠かない季節である。
そしてもう一つ脈絡のない話をしよう。
人は誰でもどうしても苦手なものが1つはある。
生理的に受け付けないと言い換えてもいいだろう。どれだけ完璧に見える人でも何か1つくらいは苦手だと思うものはあるはずだと俺は思う。
例えばあの鈴音ですら足の多い虫を見ると顔を青くする。
俺はというと、実は高い所が苦手だ。
──そして千鶴は「おばけ」が苦手らしい。
テレビから突然おぞましいBGMとおどろおどろしいナレーションが始まり「最恐! 夏の怪談特番」と不気味に表示された瞬間、
千鶴の表情が固まった。