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今度それとなく聞いてみようかな。
そんな事を思いつつ、やはりすることがないのでテレビを付けてぼんやり時間を潰してしまった俺だった。
──そしてそれからしばらくして俺は母さんのエプロンを着けキッチンに頓挫している。
不思議なもので、エプロンを着けただけで完全にシェフの気分だ。料理長の被っているあの長い帽子が欲しいところである。
冷蔵庫の中には決められた材料しかなく、一目見ただけで何を作ればいいのか完璧に分かる状態になっていた。
「主婦度高っけ~…」
ともあれ、この材料で出来る料理ならなんとか俺にも作れるだろう。
千鶴ほどでは無いがいずれ上京する時のためにひと通りの家事はできるようにしてあるのだ。
米を研ぎ炊飯器のスイッチを入れる。
丁寧に野菜の皮をむき、包丁で均等に切っていく。
予め用意されていた調味料を今一度確認した後、バリューマックスで購入したらしい豚バラ肉を一口大に切る。
手順が曖昧な所は携帯で情報を確認しながら、少しずつ手順をこなしていく。
そうこうしていく内に段々とただの1材料だった品々が鍋の中で立派な料理らしきものとなってグツグツと煮込まれていってた。
みりん、酒、砂糖、醤油など割と多めの調味料を使うため味付けはかなりシビアである。
丁寧に、失敗しないように一つずつ調味料を入れていき、また煮込む。
お、良い匂い。
そろそろ完成も見えてきたところで米が炊きあがったらしい。
炊飯器の中にはきっちり2合の御飯が美味しそうに湯気を放っていた。
──よし、そろそろだろう。
鍋を開けると食欲を増進させる湯気の匂いとともに現れたそれ、見た目にはまあそれなりに肉じゃがに見えるようで1安心だ。及第点だろう。
最後にもちろん味見も忘れない、スプーンで汁部分を掬って口に放り込む。
人参やじゃが芋にも味が染み込んでいるかを確認、………よし!
母さんや千鶴のそれと比べると格段に味は落ちるものの、確かにそれは紛うこと無き肉じゃがの味だった。
──ふう…。久しぶりに作ったけど、なんとか上手く行った…。
腕を伸ばし、体の筋を伸ばす。
うぅぅ……っと息が漏れると、ほんの少し達成感が俺の中で湧いた。
ま、こんなもんだろ。
と、そこでガチャリと玄関の鍵が開く音が聞こえた。
丁度千鶴が帰ってきたようだ。