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こんなことを言うと語弊があるかもしれないが、そもそも我が家は俺の収入源などというものが必要なほど貧乏ではない。
生活面でそこまで切羽詰まったことなど一度もない。
元々物欲もなく、趣味もない俺のバイト代の使い道といえば携帯やインターネットなどの通信費位のものだ。
お陰で貯金は貯まる一方である。
「君のやっていることが悪いことだとは思わん、むしろ働き者で立派だと褒め称えもしよう」
ただ、と鈴音は付け加える。
「何故、部活を辞めてまでバイトを増やす必要があった!? 金が必要だったと言うのなら話は分かる、部活に情熱が無かったと言うのなら理解も出来る。……ただ君はそのどちらでもないじゃないか!」
これである。鈴音が頑なにまで俺に突っかかってくる理由。
陸上部とバイトは元々兼任だった。
なので1年前までの俺は今の半分以下程しか働いていなかった。
ともすれば優先度においては陸上部の方が高かったくらいだ。
当時の俺は、そう言う時間を過ごしていた。
そしてその優先度はある日変わった。
いや、正確には陸上部に対する興味を失ってしまったのだ。
それ以来俺は校内一の勤労少年になった。
「理由を聞いてもずぅっとはぐらかして、いつもいつもこっちの心配などどこ吹く風……君は一体何なんだっ!」
うがぁーと鈴音は頭を抱えた。
少し大袈裟なその仕草はなるほど鈴音らしいなと呑気にそう思ってしまう。
「だ、だから別に大した理由じゃないんだってば」
「なら陸上部に戻ってこい圭吾!」
出たよ、何でこいつはこんなに俺に陸上部戻って欲しいんだよ、大した選手じゃなかったでしょっ!
「大丈夫だ、もしそれで圭吾に文句のある奴がいても、私が守ってやるっ! 安心しろ!」
「男前すぎるだろお前…」
「でなければ、せめて納得できる理由を説明してくれ! 私にもわかるように!」
「言っただろ、やる気がなくなったんだよ」
「それが嘘だという事くらい私に分からないと思うのか!」
真っ直ぐな言葉と真っ直ぐな瞳。
カリスマ、と呼ぶべきなのだろうか。出会った頃からこいつは誤魔化しだとか欺瞞だとか、そうやって自分を騙している奴を何度も救ってきていた。
故に、綺麗事でも勢いでもなく花菱鈴音の言葉は力強い。