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× × ×
「あの…その…実は折り入って……ご相談があります」
──そんな妹から今日こんなことを言われたのが始まりだった。
千鶴は真っ赤になった顔を俯かせ、モジモジしながら俺の部屋の入り口前に立っている。
「そ、相談? お前が…俺に?」
コクンと頷く千鶴。この家で、ましてや俺の部屋で俺と千鶴が話す事自体が珍しかった。
その千鶴が俺に相談事というのは親が再婚して以来初めてのことだ。
というか、嫌われているものだと思っていたからこんなことはまず無いだろうと思い込んでいた。
なので、正直俺は戸惑いを隠しきれていなかったと思う。
「と、とりあえず中入れよ」
申し訳なさそうに入り口前で俯いたまま立っている千鶴にそう声をかける。
暫し迷った後「はい…」と小さく呟いておずおずと中へ入ってきた。
座布団を出してやると「あ、ありがとうございます」と頭をさげた後、ちょこんとその上に腰掛ける。
風呂上がりなのだろう、ふわりと石鹸のいい匂いがした。
──妹が兄の部屋にいる。
字面的には何もおかしなことはないはずなのだが、我が家ではかなり異常な光景だった。
「それで相談って?」
努めて優しい声で問いかける。
けれど俺の声に萎縮するように千鶴はビクッと身体を硬直させた。
「あの…一週間後のこと…なんですけど」
ぼしょっと切り出された小さな言葉は何とか俺の耳に届いた。
いくらなんでも緊張し過ぎだろ、こいつの目から見て俺はどんな風に見えてるんだ。
というか一週間後? 一週間後になにかあったろうか。
頭の中で高速で検索をかける。
……1件、該当した。
「親父の…誕生日?」
千鶴は一瞬だけ顔を上げるとさっきよりも強く頷いた。