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結局話し合いで決まらなかったので5度のジャンケンの末今日は千鶴が担当することとなった。
最近わかったこと、千鶴は結構強情だ…。
しかも誰かのためということであれば3倍くらい頑なになる。
母さんがいつも着ているエプロンを漬けキッチンに立つ姿は中々サマになっていた。
「待っててくださいね、腕によりをかけますから!」
気合十分といった感じだった。
「ん。楽しみにしてるよ」
言いつつおもむろにテレビをつける。何もしてなかったらしてないで気遣うだろうからな。
テレビはどこもニュース番組やお昼のバラエティばかりであまり面白そうな番組はやっていなかった。
自然興味はキッチンの方に向けられてしまう。
千鶴の手際は実際かなりのもので流れるようにテキパキと作業をこなしていた。
まるでベテラン奥さんのような動きである。
しばらくするとキッチンから何とも言えないいい匂いがしてくる。この匂いは…グラタンかドリアだろうか。
「♪~~」
ご機嫌な千鶴の鼻歌が聞こえた。どうやら上手く行っているようだな。
そこからしばらくすると
「お、お待たせしましたっ」
と控え目に声をかけられる。
予想通り、シーフードドリアを作ったらしい。
ジューシーな匂いと熱々の湯気。表面のグラタン部分の程良い焼き具合が急激に空腹感を刺激した。
「お口に合えばいいんですけど」
「いや、すげえ美味そう…というか絶対美味いだろこれ」
事前に俺が食器を並べておいたので、本日のメニューが並び切り、千鶴が食卓に座ると俺達は揃っていただきますをした。
千鶴と2人きりの食卓というのは中々に新鮮なものだったが意外にも会話も弾み個人的には結構楽しい食卓になっていたと思う。
千鶴は食事中しきりに、「兄さん、ど、どうですか?」とか「わ、私としては上手く行ったほうなんですけど…お口に合わなかったら…ごめんなさい…」とか俺に自信なさげに感想を聞いていた。
味はまあ言うまでもないだろう。
あえて言うとすれば、だ。
俺の好きな食べ物ランキングが本日、王者ラーメンを抜いてシーフードドリアが堂々のランクインを果たしたレベルだった。
つまりめちゃくちゃ美味かったです。
およそそんなことを言ったら顔を赤くして俯きつつも嬉しそうにニヤけていたので良しとしよう。何が良しなのかは分からないが。