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こちらとしてもなんだかんだ新婚旅行に行ってもらうのにやぶさかではないのだ。
そもそも2人が新婚旅行どころか結婚式すら挙げていないこと自体気がかりではあった。
世界一周旅行が来るとは思わなかったが2人にとってこんなチャンス滅多にないからなあ。
その考えは千鶴も同じらしい。
俺の顔を見るとコクンと頷いた。
俺が代表して意見を言え、ということだろう。
「…ま、いんじゃないの? せっかく当たったんだしな」
「私も同じ意見だよ。2人共いっぱい思い出を作ってきてね」
正直両親がいなくて羽が伸ばせるという利点もこちらにはあるのだ。
世界でも宇宙でも行ってくればいいさ。
「じゃあ2人共しばらくの間家のことを頼むぞ」
──というやり取りがあったのが先週の木曜日。
本日土曜日、親父達は先程無事に空港から旅立ったそうだ。随分急な話である。
4人暮らしの家に2人が家を空ける、というのは中々に家がガランとしてしまい、物寂しいような感覚になってしまう。
ついこの前まで親父と2人暮らしだったはずなんだけどな。
やはり人が増える、という事はそれだけ家が賑やかになるということなのだ。
「行っちゃいましたね…」
少し寂しげに千鶴が呟く。
「あぁそうだな」
「楽しい思い出いっぱい作れるといいですね」
「大丈夫だろ、2人共こういうイベント大好きだし」
「ですね。ふふっ」
俺達2人はしばらくの間呑気に窓から空を眺め続ける。
そして我に返ると、そこには圧倒的静寂が待ち構えていた。
擬音で言うと「シーーーン」
否が応でも2人きりだということを自覚させられる。
それは千鶴も同様のようであっちこっちに視線をフラフラさせてはたまに視線が合うと慌てて逸らされた。
そ、そういう態度取られるとこっちまで照れるんですけどっ!
「も、もう昼間だしそろそろ飯でも作らないか?」
誤魔化すように昼飯を提案する俺。千鶴も同じ考えらしい。
「あ! い、いいですね! そ、そうしましょう!」
そう言って同じタイミングでお互いがすっと立ち上がる。
「あ、いいよ! 最初くらいは俺が作るって!」
「い、いえ! 兄さんは座ってて下さい! 私が作ります!」
「いやいや、ここは俺が──」
「そ、そんな手間は私が──」
無限ループになりそうだった。