3P
下駄箱まで来たもののまだ千鶴が来る気配はない。
さてどうしたものかと千鶴をぼんやり待っていると、ふいに強い視線を感じた。
え、なにめっちゃ見られてる。と思い、モテ期かしらと自意識過剰な感じに辺りを見回すと、明らかに殺気のこもった目で俺を睨みつけてる顔見知りの女がそこに居た。
「なんか用かよ鈴音」
「………っ!」
視線の主、鈴音は俺と目が合うとより一層睨みを強めた。
こわっ! 目つき悪!
「圭吾…君はここで何をしている…」
「何って…帰る途中だけど」
「…! なぜ部活に顔を出さんっ!」
「ぶ、部活って…お前それいつの話してんだよ!」
「私は君の退部届けを受理した覚えはない」
「いや退部になってるし…」
「とにかく、君がこのままだらだらとなんの目標もない生活を送るのは陸上部主将として、生徒会長として、ひいては君の友人として見過ごす訳にはいかない!」
鈴音は目に炎を宿らせる勢いでうおぉーっとばかりにそう断言する。
説明しよう、この熱血女の名前は「花菱鈴音」先程の口上通り生徒会長で陸上部主将。そして俺のクラスメイトだ。
腰まである長い黒髪を部活の時だけポニーテールに纏めていて、美人と言って差し支えないハッキリした凛々しい顔立ちと健康的な抜群のスタイル、女子にしては高い身長でパッと見た感じは大和撫子という言葉の通りみたいな外見の女の子だ。
その超人的なスペックは圧倒的で、熱血で男前な性格も相まってほぼ我が校のヒーロー扱いである。
そして普段は中々ノリの合ういいやつなのだがことこの話題となると事あるごとに俺に陸上部に戻れと言う困った女でもある…。
そう、俺は一年前まで陸上部に所属していた。
所属していたといっても何のことはない。運動神経は並中の並で体力もそこそこの俺は特に目立った選手でもなかった。
なんとなく、という理由で入ったのでやる気もそこそこだった俺はある日を堺に陸上に対して興味を失くしてしまい3年に上がると同時に退部した。
それだけの話である。
なのに鈴音ときたら烈火の如く怒り
「ぜぇったい! ぜぇったい退部なんか認めん!」
とのたまいやがった。嫌がらせか。
それ以来約一年、こいつはこうして俺の前に立ちはだかり続けているのだった。