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「あ、兄さん」
千鶴は俺を確認すると嬉しそうな顔をした後とてとてこちらへ近づいてきた。
「おう千鶴、これから部活か生徒会?」
「あ、いえ今日はたまたまどちらもお休みなので真っ直ぐ帰ろうと思ってます。兄さんは今日はバイトですか?」
「いや、俺も今日は休みなんだ、今帰るところ」
そう答えると何故か千鶴は更に嬉しそうな顔をした後少し赤い顔で
「あ、あの! じゃ、じゃあ…ちょっと待っててもらえますか…? すぐ…帰る準備するので」
と妙に早口で言った。
「お…お、おう、じゃあ玄関とこでま、待ってるよ」
何故かつられて俺も顔が赤くなる。最近はいつもこの調子だ。
「は、はい!」
言うやいなやバタバタと自分の教室へ駆け出す千鶴。
その様子を井上は呆然といった感じで見送っていた。
「な、なあ、あれお前の義妹だよな?」
「ん、まあそう」
「お前らもっと…余所余所しくなかったか? なにあれ、向こうもお前もデレデレじゃん!」
「デレデレとか言うな! 恥ずかしい! ちょっと前に色々あってな、少しだけ
仲良くなったんだよ」
「へえぇ、そりゃまた。で、でもよう、なんか今のやりとりは兄妹っていうより……恋人同士だったぞ?」
その言葉に堪らず吹き出す。
こ、この変態野郎め…!
「そ、そんなわけあるか! 普通に話してるだけだろ!? どこもあんなもんだよ!」
「いや、なんかラブラブオーラ出てたし!」
俺の言葉など耳に入ないかのように井上は妄想を逞しくさせている。
なんだよラブラブオーラって。
身に纏えんの? 紋章出んの?
「だからそんなんじゃねえって。向こうも俺も今まで1人っ子だったんだし、距離感測りかねてるだけだって」
「ホントにそうかあ? だってそうなっちゃっても全然おかしくないだろ」
「そんなもんはアニメの中だけだっつの。おい早く部活行かないとまた怒られる
ぞ」
「おっと! いけね! まあ積もる話はまた今度ってことで! じゃあな圭吾!」
いい加減うざったくなってきたのでそう言うと井上は元気よく廊下を走り部室へと向かっていった。
「積もってんのはお前だけだろ…」
井上が今日もたっぷりしごかれますようにと願いつつ俺は玄関先へと足を進めた。