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親父の誕生日からおよそ1ヶ月近くが過ぎた。
誕生日は滞りなく進み、千鶴の手から、本来手に入らないはずだったGF14限定版をプレゼントされた時の親父は子供のように大喜びしていたので結果としては大成功だろう。
千鶴の怪我も大したことはなかったようで、1週間もすればほとんど治ったのでその点に関しても安心だ。
肝心の兄妹仲だが──
どうも最近ぎこちない。
以前ほど喋らないわけではないのだ。
たまに一緒に帰ることもあるし、話す量も増えた。
うちのバイト先にも部活の人達と一度来てうちの商品を食べていったこともある。
今までなんか近寄りすらしなかったのに、だ。
ほんのちょっとのイタズラのつもりなのか営業スマイル全開だった俺に
「き、来ちゃいました。えへへ」
とはにかんだ時は危うく目がハートになるかと思うくらい可愛かった。
だが会話が弾むかと言えばそうではなく、やはりお互いどこか探り合って遠慮し合って歩み寄りそこねあっている。
なんだこの付き合いはじめの恋人みたいな感じ。
お互い超意識してるのに、あと1歩が踏み出せない。
そんなプラトニックな関係が延長線上に続いているのだった。
× × ×
授業終了のチャイムが鳴り、日直の号令と共に騒がしくなる教室。
今日はたまたまバイトも休みだしあとはロングホームルームさえ終われば自由の身だ。
晩飯までの数時間何をして過ごそうか。
俺の心は実にウキウキと晴れやかだった。
「圭吾、この後バイト?」
友人の井上が話しかけてきた。
「いや、今日は休みだけど?」
「マジかよぉ、部活終わりにハンバーガー奢ってもらおうと思ったのに」
「仮に俺がバイトだろうが、そんなん出来ねえよ。結構そういうの厳しいんだ」
「はぁ、一度でいいからタダでハンバーガー好きなだけ食べてみたいよな」
などとアホなやり取りをしている間にロングホームルームが終わってしまった。
帰りの準備を済ませ、部活へ行く井上と一緒に教室を出る。
「でもバイトがないとしたら今日圭吾何するんだよ?」
「ん~~、まだ決めてないけどまぁ適当にゴロゴロしてようかな」
「ははっ、日曜の親父みたいだぞ」
「うっせ」
軽口を叩き合いながら階段を降りていると、千鶴と出くわした。