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「でも…私はいざ、兄さんが出来たら…嫌われるのが怖くて…前に踏み出せませんでした」
「俺も同じさ、どう接していいか分かんないんだ。今もどう接していいか分かんない」
「そうなんですよね。せっかく欲しかった兄が出来てもどう話せばいいのか分かりません…私クラスの男の子ともあまり話せませんし…」
「そうそう、どんな人かも分からないしさ、もう分別もつく年なんだからさすがに無遠慮には踏み込めないよな」
「…二ヶ月間…同じ事で悩んでたんですね…」
「なんだ、結局似たもの同士なのか俺達」
「兄妹ですもん。ふふっ」
そう千鶴は笑った、その言葉が何故だかとても嬉しくてつい涙が出そうになる。イカンイカン、耐えねば。
「千鶴さっきさ、キツい言い方してごめんな」
「謝ることないです。すごく嬉しかったです、心配してくれてるの伝わりましたから」
「…ん、ならいい」
「ふふっ」
照れ隠しについつっけんどんな態度をとってしまう。
そんな俺とは裏腹に楽しそうな千鶴の小さな笑い声が耳に入ってくる。
「あの、今日一日、凄く楽しかったです、本当にありがとうございました」
「いいって。えっとほら、こういうのは…兄の役目だろ?」
「はい、そうですね」
柔らかい声が耳に響く。顔は見えないけれど、千鶴の表情が分かるような気がした。
「──だから、今日の所は俺に任せろ千鶴」
「………はい……兄さん」
小さく、けれど確かに千鶴はそう答えてくれた。
回していた腕に少し強く力が入り遠慮がちだった千鶴の身体はこちらに身を委ねてくれた。
2人に気まずい雰囲気はもう無く、月明かりに照らされてゆっくり、ゆっくりと歩いた。
千鶴がこちらに身を預けて少し増した重みが心地良くて、待ち合わせ場所に着
くまでの間その途切れ途切れの会話がやけに優しく感じて、なんだか昨日よりも兄妹になれたようなその感覚がたまらなく大切なものだと思えた。
その大切なものを決して離さないように、傷つけないように、母さんのいる待ち合わせ場所へ俺はゆっくりと足を進めるのだった。