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「そん時からさ、絶対に俺は頼られる兄貴がいいなって思ってたんだ。友達で男兄弟のやつらがいてさ、あんま兄弟仲良くない奴なんだけど、兄貴なんてロクなもんじゃないっていうんだよ。兄貴の方も弟なんてウゼえだけだ。っていうんだ」
千鶴は黙って話を聞いてくれる。
「でもそれ聞いた時、俺知らねえよって思った。お前らが兄弟ってのを大切にしなかったからだろって…お互いに助け合ったりしなかったからだろって…そう思った」
実際兄弟が居なかったから出る言葉かもしれない。
世の中には心底兄弟ってのが疎ましくて、本気でお互いを嫌い合ってる。なんて事例だってある。
そこまでいかなくたってただ兄弟だって名目なだけで、互いに非干渉で他人同然になってる人達もいる。
兄弟っていいもんだぜ! 素晴らしいんだぜ! なんて語る奴は確かに周りにだっていやしないさ。
でも俺は、そういう奴らにこう思わずにはいられなかった。
「兄弟がいるだけいいじゃねえか」ってな。
無い物ねだりとか言われてもいい。
ただの憧れだとかバカにされたって構わない。
だってさ、周りの奴らどんだけ自分で兄弟の事貶そうが悪口言おうがさ。なんだかんだ、楽しそうなんだよな。
──家族ってそんなもんだろ。
どんだけムカつこうが、うるさかろうが──1人よりマシだろうが。
誰もいない家ほど寂しい場所なんて、ないんだぜ?
「おやつだって玩具だって幾らでも分けあって、いつだって世話して、困ってたり泣いてたらすぐに駆けつけて助ける。ちょっとくらい迷惑かけられたって笑って力になってやれる頼れる兄貴。そういうのになりたかったんだ」
まあ実際に俺の本当の母さんはもういなくて、本当は兄弟なんて出来るわけなかったんだけどさ。
「だから…最初は凄く戸惑ったけど……妹が出来て良かったって思った。小さい頃の思い出なんて全くないのにさ、血も繋がってない全然接点なかったただの後輩が、急に滅茶苦茶大切に思えてきたんだ」
あの頃俺が持ってた想い、弟か妹が出来たらなりたかった自分。
それを今、俺は叶えているんだ。
長い事黙って聞いてくれていた千鶴はすんすんと何度も鼻を啜り、ほうと気持ちを落ち着かせるように息を吐いた後「ふふっ」と笑った。
「──本当に同じですね、私達」