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「「…………」」
沈黙。
千鶴の身体は想像以上に軽かった。
最初、必死に抵抗した千鶴だったがやはり歩ける状態ではなかったらしく、俺のおんぶに甘んじるしかなかったようだ。
たがしかし、間が持たないっ!
俺も千鶴もお互い照れに照れてまともに会話が出来ないのだ。
妹を背負いながら終始二人共無言で目的地を目指す。
千鶴の足に響くかもしれないのであまりスピードはあげられない。
気まずいなんてレベルじゃないかった。
「あ、あのぅ…」
「お、おう! どうした?」
声が上ずってしまった。せっかく千鶴が話しかけてきたのに! 落ち着け俺!
「…重くないですか…?」
「い、いや? 全然? むしろ軽すぎだろ。もっと食え」
「そ、そんなこと………昨日体重計乗ってショックだったんですから……」
「成長期だからだろ」
「うぅ……」
この話題は禁句らしい。
千鶴は恥ずかしそうに呻くだけだった。
どうやらどう言ったところで気にしてしまうようだ。乙女心か。
ならば話題を切り替えよう。
恐らく今千鶴が最も気にしているだろう話題に。
「プレゼントのこと、心配すんな。俺が残って並んでやる」
「え! …で、でもそんなご迷惑──」
「ここまで来たんだから、手に入れないと嘘だろ?」
「でも…でも…! 私一人帰ってしまうのにそんな押し付けるような真似…」
千鶴はまた「遠慮」をする。
俺に気を遣って俺に心配させまいとして、一人で頑張ろうとする。
これが親しい友人や母さん達なら違うのだろうか。
普段の千鶴が分からない俺にはそれを確かめる術はなくそれがなんだかとても悲しかった。
純粋に頼ってほしいと思った。
力になってやりたかったんだ。
兄としてなのか、男としてなのか、人としてなのか、そんなのはもうどうでも
いい。
決めたんだ。俺は千鶴に少しでも近づくって。
だったらここで、俺の気持ちを伝えないと嘘だ。
だから俺は俺の思った事を千鶴に伝えてみようと思う。
──きっと、そこからなんだ、俺達は。
思えばこれが、俺の最初の兄らしい行動なのかもしれなかった。
「──いいんだよ」
「……え……?」
「頼ったって、俺に迷惑かけたって全然いいんだよ。だって俺達は兄妹なんだからさ」
少しだけ、千鶴の身体が揺れた。