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おいおい、なんだよ、そんなに意外か? 俺が千鶴の頑張りを知ってるの。
意外に思うかもしれないけどな、それくらいウチの学校の奴らなら誰だって知ってることなんだよ。
千鶴は弓道部のエースだ。
期待されてるし部活が出れない日だって絶対に自主練は欠かさない。
前に弓道部の部長から聞いたことがある、千鶴は練習量も練習時間も誰よりも多くて誰よりも努力しているんだと。
一度だけ、たまたま見たことがある千鶴の弓はとても綺麗で、弓道の事なんか全く分かりやしない俺ですら伝わる何かが間違いなくこもっていたような気がする。
そう思わせられるくらい、千鶴は真剣に弓道に打ち込んできたってことだろ。
そうさ、毎日毎日一生懸命頑張ってるのは今まで千鶴とコミュニケーションを取ってこなかった俺ですら知っていることなんだ。
千鶴にとって間違いなく弓道は、自分の都合で棒に振っていいものなどでは無かった。
無駄になんか──させてたまるか。
何を兄貴ぶっているんだと思われているかもしれない。
けれど構わなかった。
俺は嫌われたってこの際いい。
そうしなきゃいけない時だってあるだろうよ──家族だったらさ。
「……頼む……千鶴…」
「…………………はい」
そして、ようやく千鶴は諦めてくれた。
千鶴は今にも泣いてしまいそうな顔をしている。
そして遂には俯いてしまい肩を震わせる。
先程の強がりよりもずっと痛々しかった。
なんかあのカップル喧嘩してね? みたいな視線が突き刺さるが気にしない。
その後バスももう無いので俺は母さんに電話をかけ、事情を説明した。
すぐに車を出してくれるようだ。
近くに待ち合わせ場所を指定し、20分で着くというのでそちらへ向かうことにした。
ただ千鶴は歩けそうもない。いや本人は歩いていくつもりなんだろうけど。
むう仕方ない。あれでいくか──
「ほれ千鶴」
千鶴の目の前でしゃがみ込み、背中を見せる。
「ふぇ…? えっと……何、です…?」
「いや、何じゃなくて………お、おんぶ……そ、その足じゃ歩けないだろ」
「え……えぇぇぇ!?」
今日一番真っ赤になった千鶴を尻目に俺はまたため息をついた。
周りのリア充爆発しろ! という視線が……痛いです……。