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「なあ千鶴、今更だけどさ、母さんと親父に今日のことなんて言ったんだ?」
「えっと…お母さんには事情を少しだけ説明したんです」
「俺と一緒にプレゼント買いに行くって?」
「はい、最初はちょっと反対されましたけど1人じゃなくて2人ならまあ良いでしょうって」
まあそれなら問題はないだろう。
母さんなら上手いこと親父には誤魔化しておくだろうし、ちゃんと言ってあるなら千鶴が後で怒られる心配もない。
ちなみに俺は母さんに朝に帰ってくるとだけ伝えてある。
特に反対はされなかったし、危ない事はしないよう言われただけなのでそういう意味では気楽なものである。
「ただお母さんはあれでドジなところもあるのでうっかりお父さんに喋ってしまわないか少し不安です」
たはは、と千鶴は苦笑いした。
むう、それは俺も少し思っていた。
2ヶ月一緒に暮らして母さんのドジは何度か見ている。
生まれた時からずっと一緒の千鶴からしてみればそのドジは最早お馴染みなのだろう。
「まあ流石に1日くらい大丈夫だろ……多分」
「だといいんですけどね…」
母さんの信用はほぼ0だった。
普段はいい母親なんだけどね。
なんてことを考えながら向こう側へ降りる階段に足をかけようとしたその時、後ろからドタドタと乱暴に階段を駆け上がる音が聞こえた。
「っべー! もうバスのラストまであんま時間ねえじゃん!」
「早く早く! 急がないとマジヤバイって!」
恐らく同い年くらいであろう、軽薄そうな格好の男女が凄い勢いで歩道橋を駆け抜けようとしていたのだ。
それに対して俺は一瞬、千鶴は一拍。
反応が遅れた。
「え?」
ドンッとぶつかる音の一瞬後、千鶴の小さな身体が体制を崩し階段から足を踏
み外していた。
「あっ! ぶつかっちった! マジウケる! めんごー!」
「ちょっと! いいから行くよ! バスに遅れちゃう!」
ぶつかった張本人は悪びれもせず俺達を追い越し歩道橋を駆け下りていくがそれに文句を言う暇はなかった。
ヤバイっ! 落ちるっ!
「千鶴っ!!!」
叫ぶと同時に身体が驚くほどのスピードで動いた。
よろめいた千鶴がそのまま階段を転げ落ちるあわやという所でなんとか俺が抱きとめることが出来たのだった。
あっぶねえええええ! 間一髪っ!
ホッと息をつく。