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「えへへ…これ大事にしますね」
「あ、あぁ。まあ喜んでくれてるなら良かったよ」
俺とのツーショットプリクラを見て嬉しそうにそう漏らす千鶴。
やはりというか当たり前というかプリクラ内の空間はふわふわぽわぽわしていて甘ったるい匂いとかもして、すごく居づらい空間だった。
彼女がいる奴はこういう空間にも慣れているのだろうか。
出来たことがないのであまりピンとこない。あれなんか死にたい。
ともあれ人生初の女の子とのプリクラだ。
大事にしておいて損はないだろう。
その後俺達は、軽めの夕食を取りまた街中を見て回った。
普段ファーストフードを食べないという千鶴は美味しそうにハンバーガーを食べていたし、服屋で服を物色している姿はやはり女の子という感じだった。
普段遊ぶ暇なんて全く無い千鶴に少しでも楽しい想いをさせられれば、と思って計画したことだが果たしてどこまで千鶴は楽しんでくれているだろうか。
ただ、まず間違いなく今日千鶴と俺は今までで一番コミュニケーションをとっていると思う。
俺としては嬉しい事実なんだが、千鶴にとっても…そうだろうか。
最初は怖がられて避けられていると思っていたが、今日の様子から察するにそこまで嫌われてはいないのではないように思える。
俺の自信過剰でなければいいのだが…。
どちらかと言うと、遠慮というのが一番正しい。
兎に角ずっと不安そうなんだ。俺の顔色を伺って、俺の言うことに逆らおうとせず、俺に気を遣いっぱなしだ。
さっきだって千鶴の荷物を持ってあげようとしただけでとても遠慮され男女の力や体力の差をイチから説明するという街中でなにやってんの、みたいな珍イベントがあったくらいだ。
「♪~~」
そんなことだから上機嫌で服を選ぶ千鶴を見て俺は期待なのか不安なのかよく分からない気持ちになっていた。
本当に俺は千鶴に近づけているのか…?
不安が拭われることは、無かった。
結局そうして街を見て回っているだけで結構な時間も経ち、辺りもすっかり暗くなった頃俺達はようやく目的のゲーム屋に向かうことにした。
「暗いから階段気をつけろよ」
「は、はい、大丈夫です」
歩道橋を渡り少し歩けば目的地だ。
時刻は現在9時50分。今から朝の8時まで実に10時間程並ぶのか。
嘆息しながらゆっくり歩道橋の階段を登る。