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本題に入る前に少しだけ俺達のことを話そう。
この俺佐倉圭吾は今年受験を控えている高校三年生のどこにでもいる男子だ。
どこにでもいる、というのは創作物における主人公の常套句でその実主人公達はどこにもいないような奇特な性格だったり境遇を持っていることがほとんどだろう。
ただし俺は本当にどこにでもいる、およそ主人公にはなり得ないはずのごくごく平凡な学生なのだ。
違う世界に飛ばされたこともないし、戦闘能力もない。不自然にモテたこともないし特別な才能もなければ許嫁なども当然いない。
変な部活に入ったり愉快な仲間に囲まれているわけでもなければ、普通に友達も少ないわけではないし別段憂鬱な訳でも青春ラブコメが間違っているわけでもない。
もちろん彼女もいないし幼馴染もいないわけだから修羅場すぎることになるはずも無いのだ。
これといった趣味もなく当面の目標が漠然と「都会に出る」な俺ははっきり言ってつまらない人間だったと思う。
没個性を形にしたような平均的な男子高校生。
それが俺、佐倉圭吾だ。
親父は小さな個人経営の会社を営んでいて、社長といえばまぁ聞こえはいいが、本人曰く片田舎の隅っこでゆるりとやっている気楽な会社らしい。
ひいひい爺ちゃんの代から細々とやっている本当に小さな会社で生活自体に困ったことは無いもののやはり世間一般でいう「社長」なブルジョアジーな生活とは程遠い。
生活水準や家だけ見ると何の変哲もないごくごく一般的な家庭と言っていいだろう。
そんな佐倉家は基本的に家族仲も悪くない。親父も母さんも、俺や妹とそこそこにコミュニケーションは取れているし思うところもない。
こう言ってはなんだがかなり理想的だとさえ思う。
俺にとって問題なのは、やはり妹との関係性だけなのだ。