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取れた! 思わず拳を握りしめる。
と、同時に我に返る。
どんだけ手間かかってんだよ俺! 全然スマートじゃねえよ!
隣の千鶴を見ると、呆然と俺を見て「ホントにとっちゃった…」と呟いている。
感動しているのか呆れているのか微妙なところだが感動しているんだと信じたい。
そんなことを思っていた次の瞬間。
Congrstulation!!! AHHHHHHHHHHH…♪
店長の声でハ長調の祝福の歌が響き渡る。ぬいぐるみを取れれば流れる仕様になっているようだがやめた方がいいと思う。うるさいし。
「ほれ、やるよ」
俺はその戦利品をぽすっと千鶴の胸元に押し付けた。
「あ…で、でも実際に取ったのは私じゃないし…私より多くお金使ってますし…」
いぬねこさんのぬいぐるみは欲しい。しかし躍起になって取ったのは俺。
その事実が千鶴を躊躇させているようだ。
男が女を連れてクレーンゲームをやる場合、自分が欲しいから金を使う訳ではないことが殆どだと思うのだが、千鶴にはその辺のことはよく分かっていないようだった。
「まあまあ、欲しかったんだろ?」
それでも千鶴はまだ納得してくれない。この遠慮しいめ…。
「俺が千鶴に受け取ってほしいんだ。…頼むよ」
顔が熱くなるのを感じる。
なんか俺恥ずかしいこと言ってね? 妹相手に口説くような真似してね?
思わず自分の立ち位置が心配になる。
「…で、でも……い、いいんでしょうか…?」
しかし、千鶴が訝しがっている様子はなく潤んだ瞳でおずおずといった感じで問い掛ける。
「むしろ貰ってくんなきゃ困る。俺ぬいぐるみに興味ないし」
そう言うと心なしか顔を赤くした千鶴は薄く笑顔を見せてくれた。
「えっと………じゃ、じゃあ頂きますね。…ありがとうございます。…えへへ」
ようやく受け取ったいぬねこさんを大事に胸に抱きかかえて幸せそうに笑う千鶴だった。うん可愛い。
イマイチ格好はつかなかったが、こんな千鶴を見れたなら苦労して取った甲斐もあったってもんだな、うん。