9P
「いや、でもいいぞ。そうやって少しずつ物を移動させてあの穴に落とすんだ」
「なるほど…ある程度の回数が必要なんですね…」
納得した千鶴はもう一度お金を投入する。
WOHHHHHH…♪ YEAHHHHHH…♪ Lonely Baby…♪
「あぁ! また! …うぅ」
だが、駄目だ。やはり操作にあまり慣れていない千鶴では思ったようにぬいぐるみを移動させられないようだ。
何度か挑戦はしたものの結果はぬいぐるみが少し定位置と比べて前後しただけだった。
無情にも店長の絶好調な歌声だけが虚しく鳴り響いていた。
「うぅ、やっぱり難しいです…」
すっかり諦めモードの千鶴。
だが余程いぬねこさんのぬいぐるみが欲しいのだろう、それでもなお視線はいぬねこさんに釘付けだった。
「どれ、貸してみろよ」
「と、取れるんですか?」
千鶴はキラキラした期待の目で俺を見ている。
「まあ任せろ」
得意ではないクレーンゲームだが、結局は予算と慣れの問題だ。
このくらいなら俺でもきっと──
FUUUUUUU…♪
千鶴では思ったように移動は出来なかったが俺は初心者ではない。
今までのクレーンゲームでの勝率は大体3割という所だ。あれ? 低くね? 初心者とそんな変わらなくね?
案の定次々お金を投入するも結果は千鶴の二の舞で取れる気配すらなく、また千鶴に諦めの表情が戻ってきた。
「あ、あのもういいですよ…? お、お金無くなっちゃいますよ…?」
「いや、もう少しなんだっ! なんとなくコツが分かってきたところなんだっ…」
実際前進はしているのだ、徐々に、徐々にぬいぐるみは取り出し穴の方向に進み始めている。
もう少し…! もう少し…!
そして遂になんと50回目、ここまで来たらもう完全に意地だった。
アームが伸びる。ぬいぐるみを掴む。一瞬ぬいぐるみが浮く。アームからぬいぐるみが落ちる。
そのままガコンとあっけない音がし、気付けばぬいぐるみは下の取り出し口に転がっていた。