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「いぬねこさんだ…か、かわいい」
いぬねこさんとはその名のとおり犬と猫を合体させたようないわゆるゆるキャラでそのふてぶてしい表情ともふもふの毛並みが中高生の女子に大ブレイク中らしい。
クラスの女子にも大人気ないぬねこさんだがどうやら千鶴も例外に漏れずいぬねこさんを可愛いと思っているらしい。
正直俺からしたらただふてぶてしくて不細工な未確認生物しか見えないのだが。
「欲しいのか?」
「…え? い、いえ…そんなこと……………はい」
案外分かりやすいな…。
実際問題俺はクレーンゲーム自体に自信があるわけではない。
だが見たところこのぬいぐるみなら少々お金をかければポロッと俺でも取れるような感じがする。
「うーん、これなら頑張ればイケるんじゃないかな」
「そ、そうなんですか、なんだかクレーンゲームは物凄く難しいイメージがあります」
「やってみるか?」
言いつつお金を投入する。
「は、はい! やってみます!」
覚束ない手付でボタンを操作するとグラグラ揺れる頼りないアームがゆっくり目標に向かった。
AHHHHHH…♪
男性オペラ歌手みたいな力強い駆動音でクレーンが動く。
いや、うるさっ。
なんでクレーンが動く度良い声で歌うんだよ…
見るとショーケースの中に小さな文字で
「店長が歌います」
と書いてあった。なぜこの機能をつけた。
そうこうしてる間に千鶴は充分に目標に狙いを定めたようでアームを下に降ろす動作まで来ていた。
UHHHHHHH…♪
Song by店長によるト短調の駆動音を響かせ、いぬねこさんへと向かうアーム。
狙いは中々的確らしくぬいぐるみがアームに引っかかって一瞬持ち上がった。
と思いきやすぐに取り落とす。
アームがゆるく設定されているからだ。
一瞬期待の表情を見せた千鶴だがアームからいぬねこさんが離れると「あぁ! 惜しい…」と落胆の表情に変わる。