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──ひとしきり話し終えるともう随分時間が経っていた事に気付き、千鶴はそろそろ戻りますと立ち上がる。
「今晩は姉さんは私のお部屋で一緒に寝るので、リビングに顔を出してから寝ますね」
「そっか、もう結構遅いから明日はお互いに寝坊しないようにしないとな」
「ふふっ、同級生にも心配掛けてしまったみたいなので気を付けないとですね」
明日からはまたいつも通りの日常だ。
俺は平々凡々な、少し社畜気味の男子高校生として。
千鶴は弓道部のエースで生徒会も務める、俺には勿体ないくらい出来た妹として。
そして、鈴音は陸上部の主将で生徒会長の超ハイスペック超人な、俺の大切な親友で千鶴の姉として。
それぞれの日々に戻っていく。
明日からはきっと学校祭の準備でまた騒がしい日々だ。
そしてそんな日々こそが、俺が手に入れた時間なのだ。
「兄さん」
部屋を出る寸前で、千鶴はこちらに背を向けた状態のままドアノブに手をかけて、俺を呼びかけた。
「なんだ?」
返すと千鶴はくるりと振り向いて、まるで天使のような無邪気な笑顔をこちらに向ける。
「私、兄さんの妹になれて本当に良かったです」
その笑顔に、言葉に、仕草に。
ドクンと心臓が高鳴った。
「これからもふつつかな妹ですが、よろしくお願いしますね」
頭を下げる千鶴に俺の頭はどうなしてしまったようで、上手く言葉を返せなかった。
ただ「あ、あぁ」とか「お、おう」とか言ってたような気もする。
「……兄さん、大好きです」
最後の言葉を言うと、そのまま早口でお休みなさいと言い慌てたように部屋を後にしたのであった。
俺は、衝撃でしばらくの固まったまま動けなかった。
顔は火照ったように熱いし心臓はさっきからバクバクうるさいし、気分は高揚している。
先ほどの言葉がループ再生のように何度も何度も脳内でリピートされる。
──兄さん大好きです。…です…です…です……(エコー)
硬直が解けた後も俺はしばらくの間呆けたように虚空を見つめていた。
それほどまでに破壊力抜群だったのだ。
しかもシラフの状態でだ、これはたまんない。
こういう時言うべき言葉というものは実はそんなに多くはない。
全く、妹は最高だぜ! も捨てがたいが、やはりシチュエーションとしてはきっとこうだ。
俺の妹がこんな(ry