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「まあ、そんなに気にすんな、って言っても難しいか」
苦笑すると、千鶴は更に項垂れてしまう。
「……面目次第もないです……」
面白いくらいに落ち込んでいる。
気に病むことではないのだが、失態を見せてしまったことの恥ずかしさや元来遠慮しいの千鶴には堪えているようだった。
「俺は色々楽しかったけどな、千鶴に甘えられて」
「うぅ、そ、それは忘れて下さい……」
いや無理だって。
あの兄さんらいすきーの破壊力ヤバかったもん。
言うと千鶴が間違いなく発狂するので言わないが。
ひとまず、立ち話もアレだ。
千鶴も目が冴えてしまったようだし、俺もまだ眠くない。
ここは話し相手になってもらうとしよう。
「とりあえず、中入る?」
軽い感じで問うと千鶴は少しまだ何か言いたげだったが。
「……は、はい」
素直に部屋の中へと入った。
──こんな夜が前にもあったことを思い出す。
あの時は俺と千鶴の仲もまだぎこちなく兄妹になったというのに全く話せずにいた。
親父の誕生日プレゼント探しを相談され、買い物に付き合い、そこからようやく俺達は少しずつ歩み寄り始めた。
近づけば近づくほど千鶴が大切に思えて、知れば知るほど愛おしくなって。
千鶴のためなら何でもしてやれるような気にだってなった。
かつて俺達の間にあった気まずさはもうなく、今は沈黙さえも心地良い。
それはきっとあの時と比べて俺達が「家族」というものになれたからに他ならない。
その事がたまらなく嬉しい。
千鶴は行儀よく差し出した座布団に座り、俺を見て小さくはにかんだ。
「今日はすごく色々ありましたね」
「あぁそうだな。目まぐるしい1日だった」
ため息をつく。
実際多分あれ以上の修羅場はもう人生単位でも経験しない気がする。
「ふふっ、そうですね」
千鶴はどこか楽しそうにそう漏らした。
「? なんか嬉しそうだな」
聞くと千鶴はその大きな目をこちらへ向けて微笑を浮かべる。
「だって、結果的に兄さんは私のお願い叶えてくれたんですもん。妹として鼻が高いんです」
そのセリフに思わず俺も笑みがこぼれた。
「な、なんだよそれ」
「言葉の通りですよ。兄さん、ありがとうございます」
そうストレートに言われてしまうとかなり気恥ずかしい。
俺はつい千鶴から視線を逸らしてしまう。