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家族とはきっと助け合うものだ。
いつかどこかで聞いた台詞。
小さい頃から俺達はそれを疑わなかった。
俺の迷いを千鶴が振り切ってくれたように。
千鶴の悩みを俺が手助けしたように。
「俺も千鶴も母さんが悪いなんて思ってない、鈴音だってそうさ。母さんは立派な母親だよ。だからもうそんなに自分を責めんなよ」
母さんの大きな瞳が鈍く光り、頬を涙が伝う。
それでも母さんは決して俺から目を逸らさなかった。
「失くした時間はこれからゆっくり埋めていけば良いんだ。鈴音はもう自由だし、千鶴とだってこれから少しずつ「姉妹」としての時間を取り戻していくんだと思う。けどさ、それって2人だけの問題でもないだろ。俺や親父だって力になるよ、でも何よりも2人を助けてやれるのは、母さんじゃないか」
少し照れくさいのはきっとそれが心に触れる言葉だからだ。
言わずにいられないのは、母さんが傷つく所を見たくないからだ。
そんな感情は家族であれば実に当たり前の感情で、誰だって思う事で。
だけどきっと言葉にしないと伝わらない。
「…………この姉妹には母さんが、必要なんだ」
俺の言葉が終わると、まるで美しい景色でも見たかのような顔で鈴音が息をついて。
「やはり……あなた達は素敵です」
と一言呟いた。
「全部圭吾の言うとおりです、私たちにはあなたが必要だ。私は今まで妹や母というものを知らなさ過ぎた。…………教えていただけると助かる」
母さんは戸惑うように身じろぎする。
「本当に、いいの? 私は鈴音のそばにいてもいいの?」
声は震えていて、表情は未だ不安そうだ。
そんな母さんに
「そばに、いて下さい」
鈴音は優しく母さんを抱きしめる。
「す、ずね…………鈴音ぇ!!」
母さんは幼子のように鈴音の胸の中で泣いた。
親が子をあやすように。
「ごめんね……! ごめんね……! 今までひとりぼっちにさせて、ごめんなさい……! 私、鈴音のそばにいたい……また……鈴音のお母さんに……なりたい……!」
「…………母と、呼んでも、いいのですか……?」
鈴音が遠慮がちに尋ねると、大袈裟なくらい何度も母さんは頷いた。