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元来母親というものを知らなかった俺には確かに母親がどんなものかなど大してわかっていないのかもしれない。
けれど千鶴を見ているとよくわかる。
母さんがどれだけ千鶴を大切に育てていたのか。
母さんを見ているとよくわかる。
千鶴がどれだけ母さんを信頼しているのか。
2人と家族になってよくわかった。
母親というものが、どれだけ温かくて、兄妹というものが、どれだけ支えになるものなのか。
──人はどんなに立派でも間違える。
千鶴や鈴音だって選択を間違いかけた。
母さんだっておっちょこちょいな所がある。
誰だって完璧とは程遠い。
けれど。
母さんが鈴音と千鶴を産んでくれたこと。
そして、花菱家から千鶴を守ってくれた事。
俺の母親になってくれた事。
それを後悔して欲しくない。
その選択を間違った選択となど、誰にも言わせたくないのだ。
「──でも会わせてくれましたよ」
そしてそれはきっと鈴音も同じ考えだった。
「あなたの息子が会わせてくれたんです。私本人ですら二度と会えないだろうと諦めていた母親との再会を……あなたの家族が果たしてくれた」
鈴音は俺を見ると、思わず見入ってしまうくらい美しい笑顔でそう言った。
「私にはもう家族と呼べる人は居ないんだと随分前に諦めていた、でもあなたの娘が……ずっと一緒にいましょうと……私を姉さんと呼んでくれたのです」
「圭吾と……千鶴、が」
「はい。本当に2人にはどれだけ感謝の言葉を並べても足りない。──あなたの過去の後悔は圭吾たちが晴らしてくれました、だからもう自分を責めないでください」
「そう、なの…………そうなんだ……」
母さんは流れ出る涙を拭いもせずに呆けたように呟く。
「圭吾たちが、助けてくれたんだ」
俺は母さんに言葉をかけずにはいられなかった。
この人の息子として。
この人の家族として。
泣いている母さんを楽にしてあげたい。
それもまた、当然の感情だ。
「母さん…あのさ」
「圭吾…」
母さんは俺を見る。
俺もまた母さんから視線を逸らさない。
「当たり前だけど俺もずっと母さんや鈴音の事情知らなかったから、初めて聞いたときは本当にびっくりしたんだ」
けど、俺はその先を続ける。
「俺達は何があったって、母さんの味方だよ。──家族なんだから、もっと頼ってくれよ」