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「きっと私はあなたにどれだけ恨まれてもおかしくないと思ってる……」
母さんは少しずつ自身の想いを吐露する。
「花菱家を出ていってから十数年、鈴音を置いて行った事をどれほど悔やんだか知れない……。あの日、私が鈴音の親権を奪われた日からずっと……私が鈴音をさらってでも逃げていたらと……そんな事ばかり考えてしまうの」
花菱家が一体どのような手段を用いて鈴音の親権を手に入れたのは今となってはわからずじまいだ。
けれど、母さんは過程はどうあれ娘を見捨てた形になった事をずっと憂いているのだと親父は言っていた。
母さんの言葉に鈴音は優しい声で言葉を返した。
「……あなたを恨んではいません」
鈴音は更に言葉を続ける。
「あなたを恨むというのは全くの筋違いだ。あなたは最後まで母親として私を慮ってくれたし、花菱家は欲の為であれば何だってやる。それについてあなたが責任を感じる必要などありません。──だから、そんな悲しそうな顔をしないで下さい」
鈴音は気付いているのだろうか。
母さんの今にも泣き出しそうな表情を見て、自身の瞳にさえ涙が溢れそうになっている事に
「ずっと……ずっと……会いに行きたかった……けれど……私はもうあなたには会わせないと……千鶴にも姉がいた事を伝える事はならないと……花菱家から……制約されて……会えなかった。──鈴音に! こんなに辛い思いをさせていたのにっ!」
私は弱い母だ。
母親失格だ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
母さんは何度も鈴音に懺悔し、自身を責め立てる。
瞳からは涙が流れ、両手で顔を覆う母さんからは、ぐぐもったような嗚咽が聞こえた。
母さんはどこかで鈴音に責められる事を望んでいたのかもしれない。
けれど、鈴音は優しいから。
自分の母親を逆恨みするような奴ではないから。
だからこんなにも母さんは自分を責めるんだ。
責めずには、いられないのだ。
俺は母さんが弱い母だとは思わない。
母さんは鈴音を守ってあげられなかった事をどこまでも悔いて、嘆いている。
母親であれば当然の結露だ。
けれど母さんには悲しみにくれる時間なんて無かった。
千鶴がいたからだ。
母さんにはそこで何もかもを放り出して自暴自棄になる事など出来なかった。
それもまた母親であれば当然だ。