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背中の、軽すぎるくらいの重みを感じつつ俺はいつかのようにゆっくりと歩く。
距離もシチュエーションも全く違うのでデジャヴを感じるほどではないものの、千鶴を背負って歩く事が少し懐かしい。
ご乱心された千鶴を部屋まで運び込み、ベッドに寝かしつけるとそのまま電気を消し部屋を後にする。
あードキドキした。
いくら普段は大切な妹だと思っていたって元を正せば千鶴はれっきとした異
性、しかもとびきりの美少女だ。
その低身長も幼児体型も幼い顔立ちも見る人が見れば非常に魅力的に見えるだろう。
俺はロリコンではないが(失礼)さっきみたいにベタベタに甘えられたり大好きと囁かれると、その、すごく困る。
具体的には心臓が破裂しそうになるし、どうにかなってしまいそうで困る。
ベッドに寝かしつけた際見えた無邪気な寝顔を見た途端、急激な顔の火照りを感じ、ドッキドキのワックワク状態になった。
この精神状態はいかん。
俺は兄貴なんだ。
兄妹として千鶴の事は大事にすると決めたんだ。
千鶴は妹。
千鶴は妹。
千鶴は妹。
三回唱えて気持ちを落ち着け、リビングへのドアを開いた。
そこには。
「…………」
「…………」
「…………あー」
食事前と全く同じ光景が広がっていた。
ていうか親父……。
あ ん た は い い 加 減 に し ろ
× × ×
リビングには重苦しい空気が流れ続ける。
酔った千鶴の発言がこの2人にはとんでもなく効いていたようだ。
どちらも話したそうにしているもののお互いの視線がぶつかると逸らしてしまう。
──やがて母さんが意を決したように口を開く。
「……少し話、していい?」
ビクン、と鈴音の肩が揺れた。
しばらくの間が流れる。
およそ時間にして10秒ほどだったと思う。
けれどその間は俺の体感時間で何分も感じる。
その10秒、こちらが潰れてしまいそうな程重苦しい沈黙を経て鈴音は。
「…………はい」
と小さく頷いた。
顔を上げた時に見えたその表情には一切の迷いは無く、瞳には一切の淀みは無い。
俺がよく見る彼女の姿。
清廉で、威風堂々で、可憐で。
真っ直ぐで、気高く、凛として。
俺の憧れた天下無敵の生徒会長。
花菱鈴音の姿だった。
向き合う覚悟が決まったようだ。