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「…………む~」
千鶴は俺をとろんとした目で真っ直ぐに見つめたまま動かない。
「…………ど、どう、した?」
「…………兄さんの、どんかん」
「…………え?」
「兄さんはいっつもそう! 私や姉さんの気持ちも知らずにいっつもいっつもどこ吹く風! 兄さんはズルいです、卑怯です、女たらしですーーー!!!」
があーっとまくしたてる千鶴の俺への文句は留まることを知らない。
というかこの妹何言ってんの?
意味が全然分からない。
「なんでぎゅーってしてくれらいんれすかー!!」
もう呂律回ってないし。
そして怒るポイントもワケがわからない。
この状態でぎゅーって出来るわけ無いだろ。
萌え過ぎて死んじゃったらどうするんだ、俺が。
「落ち着けって千鶴、な?」
まずは冷静になろうと俺は紳士的お兄ちゃんモードで千鶴と対話する。
荒ぶる千鶴を宥めようといつものように頭を撫でた。
なでなでなでなで。
少しの間気持ち良さそうに目を細めた千鶴は。
「…………そんなことで誤魔化せると思ってるんですかっ!!」
とのたまった。
千鶴はその状態のまま(撫でられている状態のまま)俺に更に顔を近づける。
触れちゃう! なんか触れちゃうってば!
「わたひはこんなに兄さんのことらいすきなのに!! すぐそうやって子供扱いして! もう兄さんなんか──」
そこで一旦言葉を区切ると、千鶴は俺の首に手を回しそのまま顔を埋めた。
「……兄さんらいすきれす……」
そんな兄冥利に尽きる、可愛すぎる言葉と共にまずは俺への文句はピリオドを告げる。
そして。
「姉さんと母さんもです!!」
矛先は2人に向けられた。
いきなり名前を呼ばれた2人はかなり驚いたと思う。
ただお怒りの千鶴さんは俺にべったりくっついて撫でられているので迫力は子犬が飼い主の膝の上で威嚇するレベルだ。
いっそ微笑ましい。
「私は姉さんとお母さんに仲良くなって欲しいんれす!! 黙って聞いてればなんれすか! いつまで経ってもぜんっぜん取り繕った会話しかしないし!! ホントは2人ともずっと仲良くしたかったくせに!! そんなんだから! そんなんだから────」
そこで千鶴は。
「……………すぅ………すぅ………」
寝落ちした。
俺の膝の上で、気持ち良さそうに。