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「……千鶴?」
恐る恐る声をかけると千鶴はとろんとした目をこちらに向けた。
「……えへへ、兄さぁん」
そして、千鶴は倒れ込むように俺に抱きつく。
女の子の柔らかさと匂いに不覚にもクラリとする程鼓動が高鳴る。
「!!!???」
「んふふ~…………いい匂い~」
瞬間、佐倉家の食卓の、時が止まった。
こ、これは……! 敵ス○ンドの襲撃!?
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
「俺は母さん達の俺いじりを止めさせようと思ったら、いつのまにか妹が俺に抱きついていた」
な…何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…。
エロゲだとか美少女アニメだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
などと言っている場合ではない。
千鶴は俺にスリスリと甘えるように顔を押し付ける。
母さんも鈴音も親父も、何一つ言葉を発することが出来なかった。
もちろん俺もである。
「……あの、千鶴、さん? い、いきなりどけんしたと……?」
「……兄さん、ぎゅーってして下さい」
ダメだ! 言葉が通じない!
千鶴はいつにも増してふわふわぽわぽわとしていて、とても可愛いのだが明らかに様子がおかしかった。
「千鶴もしかして、これ飲んじゃった?」
母さんが千鶴の前にあった空のコップを手に持つ。
それは、千鶴が先程までずっと持っていたコップだった。
横には半分以下になっている見慣れない瓶。
「そういえば千鶴。……結構それ飲んでた……」
「これ……お酒よ?」
事態を全て理解した。
こいつ、酔っ払っている。
「ち、千鶴、大丈夫か! 母さんどうしよう!」
「と、とりあえず水持ってくるわ! あと父さんは狼狽えすぎ!」
「こ、こら千鶴もう飲むんじゃない! も、もうちゃんと座りなさい! 圭吾も
デレデレするな!」
「やだ~、兄さんといる~」
「ちょ! 千鶴! 顔近い! 顔近いから!」
只々慌てふためく役に立たない親父と、迅速に対応する母さん。
千鶴(と何故か俺まで)を叱りつけるお姉ちゃんの鈴音に、駄々甘え少動物系妹千鶴。
そして役に立たない親父の血を忠実に受け継いだ不詳の兄、佐倉圭吾。
もうひたすらてんやわんやだ。
何この構図(パート2)