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こ、怖ええええ!!!
美人が本気で怒ると迫力が違う。
千鶴なんかは完全に俺の後ろに隠れていた。
もしかすると一番付き合いの長い千鶴にとっては怒った母さんは実は最も苦手なものなのかもしれない。
母さんはなおも烈火の如く俺達に怒りをぶつける。
「帰ってきたら学校からは連絡が来るし! 携帯も繋がらないし! どこに居るのかもわからないし! 心配するじゃないバカぁっ!!」
よく見ると母さんの表情は涙目だった。
途端に途轍もない罪悪感が襲い掛かる。
そうだ、親である母さんが俺達を心配しない訳が無かった。
俺はすぐさま母さんに事情を説明する事にした。
「ご、ごめん、母さん。けど、これには止むにやまれない事情があって──」
「そ、そうなんです! この2人は悪くありません! 全て私の……花菱の家が悪いんです!」
そして、俺のそんな言葉を遮るよう鈴音が弁明してくれる。
鈴音の顔を見た母さんは一瞬だけ驚いたような表情をしたが、鈴音の言葉を聞いて次に困惑したような顔になる。
「……え……花菱……? ……あなたは……?」
「申し遅れました。……花菱、鈴音と言えば解るでしょうか……」
母さんはその大きな目を更に開かせた。
「す、鈴音……な、の……?」
× × ×
そして冒頭の場面に戻る訳だ。
リビングに通された俺達は(親父は怒っていた、というよりは心配で真っ青になっていたようで千鶴の無事な姿を見ておいおいと泣いていた。親馬鹿め)2人にあらかたの事情を説明する。
ずっと黙って聞いている2人の表情はどんどん暗くなり、母さんは最後には俯いてしまった。
鈴音はこの家に入ってからずっと無言だ。
俺と千鶴は完全に困り果て親父の発言を求めたが、やはり親父も困り果てているようで先ほどから「あー」とか「うー」とかしか言わない。
我が親父ながら情けない、とは流石に責められなかった。
だって俺も何も話せないんだもの。
血筋なんだもの。