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最後に鷲津さんは俺を一瞥し、シニカルに笑った。
「兄ちゃん、聞こえてたぜあんたの啖呵。……全くあの状況でよくあんな滅茶苦茶な暴論を通したもんだな」
確かに俺すごい事言っちゃったなーという自覚はある。
蔵人相手に俺には何も手立てがなかったと言っても要は「千鶴も鈴音もオレのもんだ! 手を出すな」と言ったようなものだ。
よくあれで何とかなったものだと今更ながら自分でも不思議な程だった。
「けど、多分蔵人様には初めてだったんだろうな。損得も理論もまるで無い、本気で他人の為に懸命になれる男の姿を」
「みっともなかったけどな」
「それは否定しない」
おい、そこは嘘でも否定してください。。
思い出すと死にたくなるからあまり思い出さないでおこう。
「だかな、一度は自由を諦めかけた鈴音様の意思さえ兄ちゃんは変えたんだ。──もしかしたら蔵人様にはそれが一番響いたのかもな」
「あの男がそんなタマかよ」
にわかには信じがたい。
鷲津さんは「さて、どうだろうな」とまたシニカルな笑顔を見せた後、俺に真剣な表情を向ける。
「ともあれ、兄ちゃんにこれだけは伝えておかなきゃな」
──そう言って鷲津さんは深く、頭を下げた。
「鈴音様を助けてくれてありがとうございます。──そして鈴音様を、よろしくお願いします」
その一礼に俺は誠心誠意を込めて、一人の男として返事をしたのだった。
──そして
鷲津さんを見送った後、早速我が家へ鈴音を招き入れようと玄関の扉を開け
た。
だが、俺達は重大なミスを犯していたのだ。
今思えばなぜ失念していたのだろう。
世界一周旅行に親父達が帰ってくるのが本日だということ。
学校は無断欠勤扱いになっていること。
当然学校側から自宅へ連絡が行っていること。
つまり玄関の扉を開けると。
「……あ、ん、た、た、ち」
般若の形相になっている母さんとエンカウントするのは必然だった。
ヒィッ! お、鬼!
叫びそうになったがよく見ると母さんだったのでどうにか堪える、が後ろでは千鶴のヒッと小さな悲鳴が聞こえていた。
なんせあの鈴音ですら固まるくらいだ。
これが、鈴音と母さんの初対面である。
ごめん鈴音。心の中で俺は土下座した
「どういう事か…………説明しなさいこの悪ガキ共おおおおお!!!!!!」