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それともう一つ、鈴音は卒業後、この街で暮らして行くのが難しくなるかもしれない、という事だ。
この街で花菱の名は余りにも強大すぎる。
その花菱に事実上逆らって生きていくと言う事は現実的な話、進学や就職にも差し障りが出る危険性も考えられるのだ。
だが、それについては鈴音自身あまり気にしていないようだった。
「この街に愛着が無い訳では無いが、これからは私は私の為に生きる事が出来るんだ。──こんなに素晴らしい事が他にあるか」
そんな鈴音らしい言葉に、千鶴と顔を合わせ苦笑する。
──その後の事だ。
早速マンションを寝床にしようとしていた鈴音に、千鶴が生活が落ち着くまではと我が家に来る事を提案した。
もちろん俺も賛成だった。
部屋にまだガスや水道などが通っていないようで今あのマンションでは雨露を凌げるくらいしか出来ない。
それにこの姉妹には時間が必要だとも思った。
きっと双方に話したいことが山のように有るはずだから。
と、考え事をしている間に佐倉家の近くまで来たようだ。
鷲津さんに声をかけ、車を停めてもらう。
「鈴音様」
──車から下りると鷲津さんは優しい声色で鈴音を呼び止めた。
「私はもう戻ります。……もし今後何かあれば、また私を頼って頂けますか?」
「ふふっ、私はもう花菱の者では無くなるんだぞ?」
「私にとって、お守りするべき方は鈴音様です」
騎士のような発言だった。
「鷲津……。今までありがとう。身体には気をつけて」
「鈴音様こそ無理をなさらないようご自愛下さい」
「あぁ、本当に……世話になった」
「……勿体無いお言葉です」
そう言って2人は握手を交わす。
この2人の関係は鈴音が生まれた時からのものだったと聞く。
言葉通り鷲津さんにとっては娘のようなものだったのだと思う。
鷲津さんは次に千鶴を見た。
「嬢ちゃん、鈴音様と仲良くな」
「は、はい。あの、私からも、今まで姉さんを助けてくれてありがとうございま
した!」
「……そいつは光栄の誉れって奴だな。あと兄ちゃんとも仲良くな。──鈴音様は手強いぜ」
真剣な口調から一転し、からかうように笑うと千鶴は顔を真っ赤にしてぷんすかと憤る。
「も、もう! そういう所が嫌いなんですっ!」
そう怒る千鶴は可愛かった(シスコン)