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やあみんな、圭吾兄さんだよ。
好きな食べ物はラーメンと妹の作った料理。
中肉中背の平凡な高校三年生さ。
最近の趣味は妹と休みの日に出かけることだ。え? シスコンだって?
ハハッ兄貴なんてどこもそんなモンさ☆
……とまぁ脳内で俺が謎のテンションになっているのには深い理由がある。
現実逃避と言っても良いだろう。
「…………」
「…………あー」
「…………」
「…………うぅ……」
順に母さん、親父、鈴音、千鶴の並びである。
何だこの三点リーダー満載の空間は。
我が家のリビングにて神妙な面持ちでテーブルを囲う俺含め5人のよく見知った顔触れ。
全員の心境を察すると本当に胃が痛い。
俺も千鶴も一言として何か話せるような雰囲気ではなかった。
生き別れた母娘の再会。
そんな感動的なキーワードとは裏腹に重苦しい空気がのし掛かるこの状況は、ある意味では当然の結果なのかもしれない。
どうしてこんな状況になってしまったか。
まずは事ここに至るまでの経緯を掻い摘んで説明しようと思う。
× × ×
──蔵人が去った後の応接間で俺達を迎えに来たのは、鷲津さんだった。
蔵人との対決の場に鈴音を呼びに来てくれたのも鷲津さんだったようで、開口一番で俺は礼を言った。
鷲津さんに事の顛末を話すと、向こうからも礼を言われ返されたので何やらサラリーマンの社交辞令のような絵面になってしまったが、それはまあいい。
千鶴と鈴音を連れて花菱家を出ると、外には用意されていたように黒い高級車──俺達が乗ってきた車とはまた違うモノだった──が待っていた。
鷲津さんは運転席に座り一言。
「丁重に送り帰せ、と社長のお達しだ。──意外だろう」
と、本当に意外な事を呟いた。
──鷲津さんの見た目と反して丁寧な運転に揺れながら鷲津さんの話は続く。
「もう20年近く仕えているが、あの方の考えている事は未だにわからんなぁ、まさかこうまであっさり引き下がるなんて」
「鷲津……蔵人は、花菱家はどうしてああまで地位や利益にこだわるようになった?」
確かにあの執着ぶりは異常だった。
娘を道具のようなものとしか見ていないかのような徹底さ。
「花菱家の繁栄」の為と呪詛のように繰り返す執着ぶり。
不気味ささえ感じる程だ。
鈴音の疑問は至極真っ当だった。