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「その…なんだ」
場違いかとは思うが、俺は発言せずにいられなかった。
この姉妹は本当に不器用だ。
お互いがお互いを思いやっているはずなのに、こうまですれ違ってしまうものなのかと内心で嘆息する。
ただ、それはその実何のことはない話だ。
どちらの言い分だって本質は同じ。
ただ、純粋に相手に幸せになって欲しいだけなのである。
であれば、俺が言うことはもう決まっている。
それは誰にだって必ず1度は経験があるはずの、シンプルなすれ違いの終わらせ方。
「千鶴は鈴音が1人でずっと重荷を抱え込んでたことが嫌だったし、鈴音は千鶴が苦しむのが嫌だった。だったらそれはもうそれはどっちが悪いとか、謝るとかそんな事じゃないと思うんだ」
その言葉を2人は黙って聴いてくれていた。
「言いたいことはきっと山ほどあると思う。だけど、誰かが誰かの為に何かしてくれた時、その相手に言うことがあるだろ?」
「兄さん……」
「圭吾……」
「今のところはそれで終わりにしようぜ。せっかく姉妹だって分かったのにのっけから姉妹喧嘩になったら先が思いやられるだろ?」
喧嘩両成敗という言葉がある。
それは厳密には本当の意味での喧嘩をしてしまった際に「あんたも悪いことしたけどあんたも言いすぎたからどっちも悪い!」みたいな場面に使われる。
この場合どちらも悪くないので正確には意味合いが異なるが結果としては似たようなものだ。
誰かが誰かの為に何かしてくれた時には「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」
それはまさしく魔法の言葉だ。
その魔法の言葉を先に言ったのは、姉である鈴音だった。
「千鶴、助けてくれて……私のことを姉といってくれて……ありがとう」
「私のほうこそ……今までずっと、守ってくれて……ありがとうございます」
千鶴も涙声で同じように言った。
「もう、1人になんかしませんから」
言って千鶴は鈴音に抱きついた。
それを抵抗無く鈴音が受け入れる。
「ずっと一緒にいましょう。──姉さん」
「……千鶴っ……ち、づる………!」
妹と抱き合いながら、いつの間にか鈴音も涙を流していた。
幼子のように泣きあう2人は、ようやく姉妹に戻れたのだ。
もう二度と離れないようにと固く身を寄せる2人の姿は、きっと誰かがずっと夢に見ていた光景だった。
3章後編・了