40P
──そして。
蔵人が去った後、途端に応接間に静寂が戻る。
これは、勝った、のか…?
あまりにもあっさりとし過ぎていて状況が掴めない。
ただ、蔵人は好きにしろと言った。
じゃあもう、鈴音や千鶴は自由になったということで良いのだろうか。
視線を鈴音に送り、その後千鶴に送る。
だが、2人とも一言も話そうとはしなかった。
「「…………………」」
重苦しい沈黙。
2人とも、話したいことがありすぎて話題を切り出せない。
そんな、以前俺にも覚えがあるような沈黙だ。
──そしてその沈黙を破ったのは千鶴だった。
「どうして、ですか……?」
千鶴の決して大きくないその声が物音ひとつ無いこの室内に響く。
「どうして、ずっと姉妹だってこと……黙っていたんですか? なんで、私を頼ってくれなかったんですか?」
「…………怖かったんだ。千鶴がもし花菱家のいざこざにまた巻き込まれるのが。
君は花菱とは全く関係のない場所で幸せになっていた。家族というものに、恵まれていた……。花菱のことなんて知らない方が良いに決まっている」
「なんで! なんで勝手に決めるんですか!」
それは、千鶴が初めて見せた怒りだった。
「何が私にとって一番いいことなのかなんて、そんなのは私が決めることです……。少なくとも私はずっとあなたが苦しんでいたと聞いてすごく辛かったし、確かに今日怖い思いもしました。──けれど」
千鶴は真直ぐに鈴音を見る。
鈴音もその視線から一瞬たりとも逸らそうとしなかった。
「けれど、私たちが姉妹だって聞いて、嬉しかったんです……!」
その言葉にハッとなる鈴音。
千鶴は必死な表情で更に鈴音に語りかける。
「私の為に今まで辛い思いをしてたことも、どれだけあなたが私を想ってくれていたかも、全部解ってます。……でも私は守られてばかりは嫌です! 私だって何かしてあげたかった! どんな重荷になるようなことだって半分に分け合いたかった! ──だって、私たちは姉妹なんでしょう!」
いつの間にか千鶴の瞳は涙で濡れていた。
頬から伝う涙は止め処なく流れ、雫となって床に落ちる。
そんな千鶴を見て、鈴音はくしゃっと顔をゆがませた後、俯いてしまう。
「……すまない……すまない千鶴……。私は、千鶴をただ、守りたくて……千鶴に…幸せになって、欲しくて…………」