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その言葉に千鶴は小さく首をふる。
「……私には信じられません」
「事実として高校に進学した辺りからお前は周りから注目されるようになっている。単純な学業から部活での成績まで華々しいそうじゃないか」
確かに千鶴の学校での評価は軒並み高い。
学年でも随一の優等生と言えるだろうし、頭の回転や呑み込みも早いから並大抵のことはすぐに出来てしまうくらい有能と言える。
だがそれはあくまでも学生として優れているというだけのことに過ぎない。
鈴音のようなある種超人的なハイスペックとはまた違うものだ。
千鶴も同じことを考えていたようで蔵人に否定的な目を向けた。
「た、たかだか学校や部活の評価が高いというだけじゃないですか、そんなものなんの判断材料にも──」
「よく判っているじゃないか。その通りだ、俺はお前のそんな上辺だけの能力が
欲しいのでは無い」
即座に千鶴の言葉を遮った蔵人は一呼吸置いて、僅かに口元を歪ませる。
──その笑みに背筋が凍えたような錯覚を感じた。
「欲しいのは、「花菱の血を引く子」という存在そのものだ」
その悪魔のような言葉に、表情に、大の大人でさえもまるで魔法がかけられたかのように言葉を発することが出来ないくらいの威圧感を放つ。
「どういう、ことですか…」
だが、意外にも千鶴はその魔法にかからなかった。
千鶴は掠れそうな声で蔵人に問いかけた。
「そのままの通りさ。お前が赤子の頃は身体が弱く、とても花菱の名を背負えるだけの余裕が無かった。だから俺はお前達母子を捨てたのだ」
「……私が会長ほど花菱家のために役立てる能力が無いと判断して母さんと私を追い出した、と。そういうことですね…。……そして残った会長。──姉を自分達の言いなりにさせた…私たちを盾にして」
相変わらず小さな声で、しかしはっきりとした声で千鶴は蔵人にそう投げかける。
俺は千鶴のすぐ隣にいたが千鶴は顔を俯かせたまま話すので今千鶴がどんな表情なのかは分からない。
ただ、俺しか気づいていないようだったが、恐怖からか、悲しみからか、その身体は小刻みに震えている。
「……そうだ。この判断は花菱の総意であり、また花菱の未来へと繋がる選択であった」
それはどこか他人事のような口ぶりだった。
「……その為に会長の人生を台無しにしてもいい、あなた達はそう言いたいんですね」