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「その話を聞いたとき、俺は何度も社長に反対した! 越権行為と言われようと、どうしても納得が出来なくて何度も頭を下げ土下座までしたさ! だが、花菱家がたかが雇われの身である俺の言葉に耳を貸すはずも無い…!」
話し終えると、鷲津さんは一転して力なくうな垂れた。
「俺には鈴音様を守る力なんて、無かったんだ……」
その姿を見て、それ以上鷲津さんに何も言うことはできなかった。
「鷲津さん……ごめん……」
「俺はいい。それより、嬢ちゃんを気に掛けてやれ」
言われて千鶴が先程から全く喋っていない事に気づく。
後ろを見やると千鶴はその小さな肩を震わせ、頬を流れる涙を拭おうともせず俺を見ていた。
「千鶴…」
「兄さん、私……会長がそんなに苦しんでいるのに……な、何もしてあげられなかった……私は、会長の……お姉ちゃんの、妹なのに…!」
「千鶴が自分を責めること無い! 全部悪いのは花菱家の奴等じゃないか!」
「私が花菱家からいなくならなければ! もしかしたら少しでも負担を軽くさせてあげられたかもしれない……。今までのことも全部2等分出来たかもしれない……助け合えたかも、しれなかったんです…! 私が強い子に生まれてさえいれば──」
「千鶴、もういいんだ!」
千鶴を抱きしめると、千鶴は抵抗なく俺の腕の中に納まった。
胸に顔を押し付けたまま千鶴がすすり泣くぐぐもった声だけが室内に聞こえる。
「兄さん、家族って…なんなんですか……? 家族は、助け合うものじゃないんですか……? もしそうなら、会長の家族は誰なんですか……? どうして会長がこんなに辛い思いをしているのに………妹のはずの私だけが、幸せなんですか……そんなの……ひぐっ……酷すぎるよぉ………」
それは懺悔のような言葉だった。
何故同じ姉妹のはずなのにこんなにも姉だけが辛い境遇にいるのか。
何故自分だけが何も知らずに今日までを過ごしていられたのか。
その想いを吐き出すように千鶴は泣き続ける。
俺はそんな千鶴をただ抱きしめることしか出来なかった。
やがて──。
「兄ちゃん、これからどうするつもりだ」
鷲津さんが唐突にそう問いかける。
「決まってんだろ。鈴音を助ける。そんでもう二度とあいつの人生には触らせねえ」
意外なほどその答えは出ていた。
朝には自分では鈴音を救えないと悩んでいたというのに。