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「けれどすぐにそんな気は起きなくなった。なんでだと思う?」
というかまず始末とか考えないで欲しい。
「鈴音様が、兄ちゃんの事をな、物凄く楽しそうに喋るんだよ。それこそ、この屋敷じゃ見たこと無いくらいの笑顔でな。──鈴音様にとってあんたは初めて出来た「心から信頼できる友人」だったのさ」
言葉にハッとなる。
「あいつ…そんなこと…」
「けれど、同時に不安がってもいた、いつも自信がなさそうだったよ。「私は圭吾の一番の親友でいられているんだろうか」ってな」
「……あいつ……」
押し黙ると今度は千鶴がゆっくりと口を開く。
「私、兄さんと話すようになってからよく会長と兄さんの話するようになったん
です」
「鈴音と、千鶴が?」
はい、と頷く千鶴。
「兄さんの中学生の頃の話や教室での話を聞いたり、家での兄さんの事とか…。会長、すごく楽しそうでした。きっと兄さんのこと大好きなんだろうな、って思いました」
「そう、なのか…」
俺はそんな彼女に何度助けられ、勇気付けられ、いつか力になりたいと思ったか知れなかった。
顔が熱かった、照れくさくてたまらないはずなのに、飛び上がりそうなほど嬉しい。
それと同時に腹も立っていた。
何が不安だったって言うんだよ。
心から信頼できる友人だって…?
俺だって同じだ。
一番の親友でいられているか不安だって…?
全部全部全部そんなのなぁ。
「当たり前に決まってんだよ…」
そう小さく呟いた。
鈴音。俺の大切な友達。
俺は蔵人から千鶴と鈴音の2人を守りたい。
世の中には確かにどうしようもできないことというものがある。
けれど、俺は2人の幸せをどうしようもできないものとして諦めることなんてできない。
そのためなら、もうこの街に居れなくなっても良い。
どれだけ俺の立場が危なくなったって構わない。
後ろに視線をよこすと困惑した表情の千鶴と目が合った。
──この姉妹に俺がしてやれることは、何だ。
「千鶴、落ち着いたら鈴音ともゆっくり話そうな」
だが──。
「──鈴音様とはもう会えないかもしれん」
千鶴が答えるより先に鷲津さんが口を開く。
「鈴音様はもう、学校へも行かれない」
「え…?」
その言葉の意味を俺は、千鶴もすぐに理解できなかった。
「──政略結婚という言葉を知ってるか」