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そんな俺達のやり取りを見て男は少し訝しげな様子でこちらを見る。
「……あんたら…兄妹なんだよな?」
「そ、そうだけど」
「…どう見ても犬も食わないやり取りにしか見えんな」
「なっ! ななっ! 何言ってっ…!」
真っ先に反応したのは千鶴だった。
うわ、耳まで真っ赤。
「私たちは兄妹ですっ!!!」
「でも数ヶ月前までは赤の他人だったんだろ?」
「それは! そうですけど…」
「じゃあ全然自然なことだろ。嬢ちゃんの方は満更でもないんだろ? 怖がってるように見せかけてずっと兄ちゃんにベタベt──」
「にににに兄さんの前でそんなこと言うなぁ!!!」
千鶴さん、まさかの丁寧語崩壊である。
「兄さん、私やっぱりこの人嫌いです!」
「お、おうそうか」
ただまぁこの人のおかげで幾分か緊張はほぐれた。
実は良い人なんじゃないだろうか。
言うと確実に千鶴が怒るので言わないけど。
そんな千鶴の反応を見て笑いを噛み殺しつつ、男は楽しげに口を開く。
「それにしても…嬢ちゃんのしかめっ面を見ると、小さな頃の鈴音様に面影が被っちまう。やはり姉妹ってところか」
「あんた、鈴音と仲良かったのか…?」
「はは、そりゃ俺は鈴音様のお目付け役だったからな。鈴音様のことなら赤ん坊
の頃から知ってらあな」
「というと、鈴音専属のボディガードみたいなもんか?」
「あぁ小さな頃からのな。よく「鷲津、鷲津」と頼ってくれたものだが、今じゃすっかりご立派になられて。あ、鷲津ってのは俺の名前な」
ボディガード改め鷲津さんは当時を懐かしむようにその時の様子を語る。
「鈴音様は、小さな頃から優秀で完璧だった。けれど今では想像もつかないくらい笑顔の下手なお方だった。そのせいで機械の様な子だと陰で蔑まれてたよ。本来の鈴音様は、本当に優しい子なのに、だ。──鈴音様が心を開いていたのは俺や一部の使用人だけさ、社長は、そんなものにご興味が無い様だけどな」
そう語る鷲津さんの表情は、どこかやりきれない様子だった。
「兄ちゃんの名前も何度も聞いたことあるぜ」
「へ、へぇ。鈴音が、俺を」
「──まぁ最も当時は鈴音様に変な虫がついたってことで使用人の間でいつ始末してやろうかで話題だったけどなぁ」
「怖いよ!」
やってることヤクザじゃねえか!