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「あのな、千鶴。限定版を買うってなったら多分前日の夜から徹夜で並ばなきゃ買えないぞ」
「…て、徹夜で…!」
「それに深夜の街中は変な奴だって多いって聞く」
「うっ……」
「悪いことは言わないから他の、もっと簡単に手に入る物にしよう。俺も考えるからさ」
「うぅ……だ、大丈夫ですっ! お父さんの為ですからっ!」
しかし千鶴は首を縦には振らなかった。
その大変さを受け入れた上でそれでも親父が一番喜ぶものをプレゼントしたいのだという。
くっ! なんて良い娘なんだ…。連邦の妹は化物かっ!?
などと言っている場合ではない。
「だったらせめて誰か知り合いと一緒に買いに行くとかさ」
「そ、そんな…か、関係ない方を巻き込めません…私個人の都合なのに…」
では何か。1人で並ぶというのか、深夜の街中で。女子高生が。徹夜で。
有り得ない。
それはあまりにも色々と危険だ。というかヘタすれば補導されないか?
俺の脳内に警察に呼び止められ、慌てて涙目になる千鶴が想像される。
……いや、ダメだろ!
「あの…相談に乗ってくれて、あ、ありがとうございました。その…おかげでプレゼントはなんとかなりそうです…当日私頑張りますねっ!」
千鶴はそう言って笑顔を作った。
少し引きつっていたかもしれない、怖いだろうし無理しているのだろう。
こんな優しくて思いやりのあるいい娘が。
考えるだけで胸の奥がモヤモヤする。
思えばこれは兄としての心配というやつなのだろうか。
それとも相談された手前のお節介というやつなのかもしれない。
このまま千鶴を放っておくことは、俺には出来なかった。
「ちょっと待った!!」
気がつくと俺は立ち上がろうとしている千鶴を引き止めていた。
千鶴はもう相談事は解決したと思っているらしくきょとんとしている。
それでも構わずに俺は千鶴の目をまっすぐ見つめる。
「あのぅ、な、何でしょう?」
「どうしても…行くんだなっ?」
「は、はい…」
「そうか…なら俺も行く」
「…え」
「俺も一緒に行って、一緒に並ぶから。…アイデアの発案者として」
頭の片隅にあった「面倒」や「睡眠時間」という言葉を完全無視して俺はそう言い放った。
こうして俺達兄妹は初めて一緒に出かけて初めてお買い物をすることになった
のだった。