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× × ×
──学校は既に完全に遅刻であったが俺達にそれを気にしている余裕は無かった。
今俺と千鶴は蔵人が乗っている黒塗りの高級車に乗っている。
行き先は告げられていない。「行けば分かる」としか答えない蔵人では話にすらならなかった。
後部座席で腕や顔の傷を千鶴に治療してもらいながら、俺は蔵人の先ほどの言葉を思い返していた。(ちなみに外された肩の骨も外した張本人にさっき入れて貰った)
ビジネスの話。蔵人はそう言ったのだ。
一体何を切り出すつもりなのか。
ふと、千鶴が心配そうに話しかけてきた。
「兄さん、痛みますか…?」
「いや、平気だよ。掠り傷だ。肩の痛みももう無い」
「そうですか、良かった…。」
胸をほうと撫で下ろす千鶴。
「私を庇って、怪我したんですよね…」
「違う。悪いのはあいつだ。千鶴が責任感じることなんか無いよ」
「でも……」
「兄ちゃんってのはこんなもん痛くも痒くも無いんだ」
「兄さん……」
手当てをしていたその小さな手が、俺の左手を弱弱しく握る。
少しでも安心させたくて出来るだけ優しくその手を握り返した。
「なぁ千鶴、あいつの言ったことだけどさ」
「あの人が、私の、お父さん…だって言う話…ですか?」
「あ、あぁ。その、今はあまり深く考えない方が良いと思うんだ。それに今の千鶴は佐倉家の子供で俺の妹なんだ。そこは絶対変わらない」
「……そう、ですね…。私も自分の本当のお父さんが誰だって気にしません。──でも……兄さん」
「な、なんだ?」
しばらく言いあぐねていた千鶴はやがて、意を決したように口を開く。
「兄さんはもしかしてこのことを知ってたんじゃないですか…?」
千鶴は真直ぐな瞳で俺を見据える。
「様子のおかしかった鈴音会長、昨日、兄さんと会長が話してた「相談」にあの
人の言葉にさして驚かない兄さんの反応…。もしかして兄さんは全部…」
「…すまん。隠してたわけじゃないんだ。昨日鈴音から聞いてからずっと言うべきか迷ってたんだ…。けど」
出来ることなら鈴音の口から伝わって欲しかった。
俺が簡単に話して良いことなんかじゃない、そう思ったんだ。
「そう、だったんですね」
千鶴は小さく言うとその顔を上げた。
「教えてくれませんか、会長のこと。──いいえ、姉の事」