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そんな蔵人の言葉には答えず、ただ一心に俺は蔵人を睨み続けた。
やがて蔵人は、
「そろそろ本題に入らせてもらうぞ」
と、俺から視線を逸らし千鶴を見据える。
「………私に、何か用…ですか…? あの、兄さんや会長とは、どういう関係なんでしょうか…?」
一連の流れを後ろで見て、少なくとも穏やかな関係では無いことは読み取れたのか、千鶴は蔵人を警戒するように身をすくめた。
「気になるか? 良いだろう、お前には知る権利がある。全て答えてやろうじゃないか。…だがこちらも世間話をしに来たのではない。──場所を移す、車に乗れ」
そう小さく言うと蔵人は千鶴を連れて、前方に見える黒塗りのいかにも高そうな車に向かって歩き出す。
「ま、待って下さい、私まだ行くとは…! そ、それに兄さんは…」
「言っただろう、用があるのは千鶴、お前だ」
俺の事など歯牙にもかけず千鶴を連れて行こうとする蔵人の背中を俺は慌てて追いかける。
「ま、待て! おい待てよ! 千鶴を何処へ連れてくつもりだ!」
「お前には関係ない、安心しろ危害は加えない」
「ふざけんな! 関係ある! 千鶴は俺の妹だ!」
そう言い放ち俺は蔵人の前に立ち塞がる。
このまま黙って千鶴が連れて行かれるのを見過ごす訳がなかった。
そんな俺を見て蔵人は心底目障りそうに。
「…おい、いい加減邪魔だぞ。──退け」
と吐き捨てた。
同時に、後ろから先程のボディーガードが物凄い力で俺を羽交い締めにし、身動きを奪われてしまう。
「兄さん!」と千鶴の悲痛な声が届く。
「何しやがる! は、離せ!」
かなり抵抗したが、やはり相手が悪い。2秒で組み伏せられた。
完全に無力化させられただけではない。
男が少し重心をずらしただけで重みと衝撃で呼吸すら出来なくなってしまう。
「ぐぁ…! くそ…! ち、千鶴…!」
「兄さん! ちょ、ちょっと乱暴はやめてください! 兄さんに酷いことしないで! 警察を呼びますよ!」
「呼べばいいさ、最もそんなものを呼んだ所で拘束されてしまうのはお前達だろうがな」
「な、なにを…! 無理矢理車に乗せようとしたり乱暴してるのはあなた達でしょう…!」
「そう思うなら呼んでみればいい。花菱の名の下には国家権力すら迂闊に逆らえない」
実際ただの脅しではなかった。
花菱はそれ程までに強大で強力な名前なのだ。