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「本当さ、話聞いた時びっくりしたんだ、それと同時に、愕然とした。俺は鈴音に簡単に、「出来ることが有れば力になる」なんて都合の良い言葉を並べ立てといて、鈴音が抱えている問題を解決してやれるだけの力なんか無かった」
だから、俺はあの時、鈴音が抱えている問題を聞かされた時、心底ではこう思ってしまったのだ。
──花菱鈴音にどうしようも出来ない問題を佐倉圭吾に何が出来るというんだ。
一晩考えて、今なお考えてそれは思い浮かばない。
大人に相談でもするか、それとも鈴音を連れてこの街を離れるか。
きっと意味は無いだろう。
この街で花菱の問題に口を挟める事の出来る人間など、居ない。
それに仮に俺が鈴音を連れてどこか遠くに逃げたとする。
残された家族、親父や母さん、何より千鶴はどうなる?
蔵人は、鈴音が逃げたら千鶴を脅してでも従わせようとするだろう。
鈴音が一体何の為に大嫌いな筈の花菱に隷属しているのか。
全て、千鶴や母さんに害が及ばないようにするためだ。
そのために鈴音は自分の自由を捨てたんだ。
きっと俺が逃げようと言ったところで鈴音は首を縦に振らない。
余計に鈴音を困らせてしまうだけだった。
「俺も力になれないか、色々考えてるんだけどさ、考えても考えても俺に出来ることなんて何も無いんだ」
どれだけ自分の考えが浅はかで、思慮が足りなかったのか。
無責任に言葉を並び立て、鈴音を安心させた気になっているあの時の自分を殴り飛ばしてやりたい。
「情けないよな」
千鶴の顔すら今は怖くて見る事が出来ない。
千鶴に失望されることが、そして鈴音の力になれないと口に出してしまうのが、何よりも怖いのだ。
俺はついに立ち止まる。
「鈴音に、どんな顔向ければいいんだよ…」
けれど──。
「私兄さんを信じてます」
耳に届いた言葉はひどく優しい声色だった。
「私は兄さんなら、会長を助けてあげられると思ってるんです。…勝手にですけど」
「千鶴…」
「もしかしたらそれはどうしようも出来ないことなのかもしれないけど、もし鈴音会長を助けてあげられる人がいるんだとしたら、それは、兄さんだけだと、私は思っています」
千鶴は真直ぐに俺を見据え、そして、
「だから、何の心配もしてないです」
そう笑いかけた。