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× × ×
翌朝のことである。
あれから結局「答え」を出せずにいた俺、佐倉圭吾は寝不足の頭で千鶴と2人、学校へ向かっている所だ。
「に、兄さん…本当に大丈夫ですか…?」
「おう、平気平気。ちょっと夜更かししただけだから大丈夫」
「ならいいんですけど……。授業中に寝ちゃダメなんですからねっ」
千鶴はめっ! とばかりに唇を尖らせる。案外そういうのには厳しいようだ。
そして可愛い。俺の妹はこんなに可愛いのだ。
むしろ天使だ。ラブリーマイエンジェルというやつである。
「あぁ、あんがとな心配してくれて」
俺はそんな想いを気づかれないように千鶴の頭にぽんと手を乗せる。
最近なんかもうシスコンでいいやってなりはじめているな俺…。
「……うぅ……に、兄さん……ひ、人前っ……」
といいつつも抵抗は無い。千鶴はどうやら頭を撫でられるのが弱いらしい。
だが、あんまりしつこくやると嫌がられるかもしれないので「はは、悪い、ついな」と手を引っ込めた。
「も、もう……! 子ども扱いしないでくださいっ」
撫でられた頭を抑えつつ真っ赤な顔で俺に文句を言う千鶴。可愛い(3回目) 人としてダメになってないか俺?
「なんで笑顔なんですか…。もう、兄さんといい会長といいすぐ私のこと子ども扱いして…!」
言ってから千鶴はしまったという表情をした。
昨日の今日で鈴音のあんな様子を見た後だからか、今朝から千鶴はずっと露骨に鈴音の話題を避けていたふしがあった。
暫し気まずい沈黙が流れる。沈黙を埋めるように咄嗟に口を開いた。
「あ…あのな、千鶴、鈴音のことなんだけどな」
隣にいる千鶴が、俺のほうへ目をやる。
「昨日千鶴も見ただろう? 鈴音の様子」
「はい」
「俺はさ、鈴音みたいなすごい奴があんなになるまで悩みを抱える、なんてさ、もしかしたら想像すらしてなかったのかもしれない」
一生忘れられない出会い方をしたあの強くて優しい女の子を俺は、いや鈴音と出会った事のある殆どが彼女を困難や挫折とは程遠い存在として見ていたと思う。
彼女に出来ないことなどおよそ無いし、彼女の言葉は真実だ。
盲信的なその信頼や期待に安々と応えてしまえる本人を見て、いつの間にか一番近くにいたはずの俺自身ですら勘違いをしていた。
花菱鈴音ですら全能ではないのだ。