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「か、会長…やっぱり何かあったんですね…?」
「……」
鈴音は答えない代わりに、抱き合ったままの状態で千鶴の頭を撫でる。
「……辛かったら無理に話さなくて良いんです……。でも、わ、私じゃ頼りないかもしれないですけど…私はいつでも鈴音会長の味方です。会長が少しでも安心出来るなら、いつでもこうして…ぎゅってして下さい」
「…………全く、似たもの兄妹だな君達は」
千鶴にとって鈴音は憧れだった。
そしていつしか単なる憧れの対象ではなく、少しでも近づきたいと思うようになった。
自分は鈴音に出会って変わったのだといつか千鶴が語っていたように。
そしてある意味では鈴音も似た感情を抱いていたのではないだろうか。
ずっと千鶴に憧れ、近づきたいと思っていたのではないだろうか。
「……や……ぱり………は、……しかった……」
「え、会長、今なんて…?」
「いや、君達兄妹はどこまでもお似合いだなと言ったのだ」
「えぇっ!? か、会長、な、なな何をっ!?」
「そうだろう? 兄の方はこんな夜更けまで私の相談を親身になって聞いてくれ、妹の方はこうして私を優しく慰めてくれる。今回に限らず君達はいつもそうだった。兄妹になる以前から、本質でどこか君達は似ていたよ」
「………あぅ………」
優しい声色のまま語りかけるように話す鈴音は耳まで真っ赤になっている千鶴の頭を優しく撫で続けていた。
「きっと、君達は出会うべくして出会ったんだと思う…。私はな、嬉しいんだ。2人が兄妹になって、仲良くやっているのが、幸せにしているのがとても嬉しい。──私は、千鶴が、圭吾が…2人が…大好きだからな……」
千鶴から身体を離した鈴音の表情は、穏やかなものに変わっていた
しばしの間のあと鈴音はゆっくりと立ち上がる。
「もう、帰るよ。2人ともありがとう」
「お前今何時だと思ってんだ。今日はもう泊まってけよ」
「そうです、危ないですよ!」
「大丈夫だ、迎えの車を手配してある」
確かによく耳を凝らすと家の近くから車のエンジン音が小さく聞こえていた。
「鈴音…マジで帰るのか…?」
「会長、本当に、泊まっていってもいいんですよ…?」
鈴音が家を出るまで俺達は何度も引き止めた。
きっと千鶴も感じているのかもしれない。
このまま鈴音を帰したら何か良くないことが起こるような、そんな予感を。