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「会長!」
「鈴音、起きたのか」
「あぁ、済まないな。少し休むつもりがいつの間にか寝てしまったらしい。千鶴、安心してくれ。圭吾の言ったことは本当だよ。圭吾はさっきまでずっと私の
相談に乗ってくれていたし、私達は男女の関係ではない」
「そ、そうなんですか」
どことなくほっとした表情を浮かべる千鶴。
俺と目が合うと「疑うような真似をしてごめんなさい!」と頭を下げられたが、もちろん俺は全く怒っていない。どちらかというと紛らわしい真似をした俺に非があるのだ。
「で、でもじゃあ会長、悩み事って…」
問いかけた言葉の途中、鈴音が愛しそうに千鶴を撫でる。
「大丈夫、大した事じゃないんだ。千鶴が心配することは何も無い」
「で、でも…」
「大丈夫だよ、ありがとう千鶴…。あぁ、やっぱり千鶴は可愛いな」
そう言いながらぎゅうっと手馴れた動きで千鶴を抱き寄せる。
「ふぅ、最近千鶴成分が足りなかったからな。こうやって補給しておかないと」
「な、なんですかそれ…」
「私が生きるために必要な栄養素の1つだ。ちなみに圭吾も千鶴成分がないと死ぬ」
「に、兄さんも!?」
「お、おい鈴音!」
こいつ、何さらっととんでもないこと吹き込んでやがるっ!
「なんだ本当のことだろう。千鶴。圭吾はな、君にメロメロなんだ。もはや重度のシスコンと呼んでも良い」
「おいやめろ! ちょやめてくださいマジでお願いします!」
「か、会長、そのお話詳しく…私の部屋でゆっくりと…」
「千鶴も何掘り下げようとしてんの!? やめて! 恥ずかしくて死んじゃう!!」
「兄さん、静かに。もう寝て良いですよ」
何この子すごい必死。キャラ変わってませんか千鶴さん?
「千鶴と2人でゆっくりお話か…この上なく魅力的な話だ…」
息をつくようにほう、とそう洩らす鈴音。
「ふふっ。本当に…いっぱいあるんだ、話したいことも一緒にやりたいことも、
きっと朝まで話したって尽きないくらい」
「か、会長…?」
「本当はいつまでも一緒にいたい。ずっと、こうしてたいんだ…。でも私は、それ以上に……君達の悲しむ顔が、見たくない」
いつのまにか鈴音の身体は震えていた。
抱き合うような姿勢になっていた千鶴にもそれは感じ取れているのだろう。
千鶴はどうしていいかわからず、困惑の表情でただ鈴音の身体を支える。