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「……ち、ちゃうねん」
動揺のあまり関西弁になってしまった。言及しておくと俺は関西出身ではないし関西地方に足を踏み入れたことすらない。
「か、隠すこと無いじゃないですか……。お似合いだと思います、に、兄さんと……か、会長…………うぅ……」
一生懸命笑顔を作る千鶴の表情は悲壮感が漂っていて痛々しい。
「千鶴……なんで泣きそうなの?」
「…………そんな、こと……」
目に涙をいっぱいにためてそれでも気丈に振舞う千鶴。
やがて千鶴は俺から顔を逸らし、
「わ、私…もう寝なきゃ」とリビングから出て行こうとする。
「ストップ」
咄嗟に千鶴の手を掴む、何この修羅場。強力な結界なの?
「多分千鶴すごい誤解してる。確かに今部屋には鈴音がいるけど、これには深い訳があってだな──」
「深い訳って……なんですか……」
「いや、それはその…………」
どうしよう。深い訳過ぎておいそれと話せない。
そんな俺の様子を見て千鶴の表情は更に曇る
「なんで、隠すんですか…可哀想ですよ、会長が…。こ、恋人同士なんでしょ…?」
「それが誤解なんだ。別に俺と鈴音はそんなんじゃない」
「そんなんじゃないって……じゃ、じゃあ……兄さんは、恋人でもない女の子をこんな時間に部屋に連れ込むような人だったんですか……?」
事態が悪化してしまった。まずいぞ、千鶴の俺を見る目が汚物を見る目になってきた。
「違う! それだけは断じてない! そ、その…内容は俺の口からは言えないが、鈴音の相談に乗ってたんだ」
「相談…? 会長が、兄さんに?」
「そう」
「…………こんな時間に?」
「……そ、そうだ」
誰がどう聞いても怪しかった。だが本当のことなので仕方ない。
「何かの本に書いてありました。男の人は相談に乗るとかこつけて、個室に女の子を連れ込むのが常套手段だって。……最低」
「ちょっと待った、俺はそんなことしないよ!? その本に書いてある男と俺はぜんぜん違うからね!?」
おい、今の最低っての俺に言ったの? その本の男に言ったの?
答えによっては、俺ワンワン泣くぞ。
「そ、それは、私だって兄さんがそんな人じゃないって分かってますけど…」
千鶴がそう洩らした言葉のすぐ後に
「そうだぞ、千鶴。圭吾は基本ヘタレだから、そんなこと出来ない」
後ろから鈴音のそんな言葉が聞こえてきた。