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「「あっ…!」」
同時に声を上げる2人。お互いこんな時間に起きているとは思わなかったのだろう、一瞬身体が硬直した。
「千鶴、まだ起きてたんだ」
少しの間の後そんなことを切り出す。
「は、はい。ちょっと寝つけなくて」
。
薄暗いリビングの入口は窓から差し込むほんの僅かな灯りだけでその仄暗い明かりが2人をぼんやりと照らす。
「兄さんこそどうしたんですか? こんな夜遅くに」
「あ?、俺もちょっと寝付けなくて、な」
説明しようにも少しややこしいので無難に誤魔化しておくことにする。
「そうなんですか…暖かい飲み物でも用意しましょうか?」
「あ、ああ。頼むわ」
「はい、少し待ってて下さいね」
言って奥のキッチンへと引き戻る千鶴。暫くすると2人分のココアをお盆に乗せて歩いてくる。
「さんきゅ」
「いえ、私も何か飲もうかなと思ってた所だったんです」
対面に座りながらココアを飲み始める2人、しかし。
「………………」
夜というものは一日の中で最も静かな時間だ。
だが、いくら夜だとしても目の前にいる千鶴はソファに座った先程から妙に一言も喋ろうとしない。
何なら目も合わないくらいだった。
「千鶴…?」
「あ、何ですか?」
話し掛けると普通に答えてくれる。…けど、こっち見ないな…。
「い、いや。ココア…美味いな」
「そうですね、美味しいですね」
「こんな時間まで起きてて、明日ちゃんと起きれるかな」
「目覚まし時計しっかりかけなきゃですね」
「あ、ああ。……千鶴」
「はい、何ですか?」
「な、なんでこっち見ないの?」
ピクっと千鶴の身体が反応する。
そこからたっぷり30秒くらいかけて千鶴は
「そんなことないですよ?」
と答えた。
「い、いや。だっていつもと様子違うし」
「そ、そうですか? 私は全然──」
「いやいや、明らかだし。……もしかして俺なんかした?」
「…………えっと」
図星らしい。
だとしたら俺は何をやらかしたのだろう、妹に嫌われてしまったら俺はこの先生きてけないぞ。
そんな空気を察したのか千鶴は頭を振って否定する。
「ち、違います!! そ、その……怒ってる訳じゃなくて………何があったのかなって」
「な、何が?」
恐る恐る訪ねてみると──。
「その……玄関に…会長の靴が…………」
…あ………。