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× × ×
月がとても綺麗な夜だった。
雲ひとつない星空に一際鈍く光るその月光は自室の窓からでも解るほど美しい。
時刻は既に午前2時を過ぎていていつもならとっくに就寝している頃だが、この俺、佐倉圭吾の夜はまだ明けない。
「どうしたものか…」
鈴音から出生の秘密や千鶴との関係を聞かされてからまだ数時間といったとこか。依然頭の整理はまるでつかない。
けれどひとまず俺が今直面している悩みは、何を悠長にと思うかもしれないがそこではない。
「…ん……すぅ…」
俺のベッドで安らかに寝息を立てる鈴音のせいで失ってしまった俺の寝床についてだ。
これについては言い訳をさせて欲しい。
ひとまず話し終えた鈴音を落ち着かせようと無抵抗の鈴音の手を引っ張り自宅へと連れ込んだ。
幸いもう千鶴は寝ているようなので誤解の心配もなく非常に好都合だったのだ。
…こうして改めるとますます悪い印象になったような気もするが、決してよこしまなことは考えてはいないし、鈴音も相当参っているようでやはり放ってはおけない状態だった。
なので鈴音が少し回復するまで一時部屋に連れ込んだだけだ。他意は全くない。
けれどそれでなくても相当疲れの溜まっていた様子の鈴音は俺が少し目を離した隙に眠ってしまった。
後には自室にて立ち往生する高校生男子(思春期)の姿だけだった。
「どうしたものか…」
さっきからその言葉しか出てこない。
このまま床で寝てしまっても構わないのだが寝過ごしてしまうと朝起きた千鶴と鈴音が鉢合わせしてしまいまるで俺が妹が寝たタイミングを見計らって女を連れ込み朝帰りさせた最低野郎だという誤解が生じてしまう可能性もありえる。
「親父の部屋で寝るか…」
それなら少なくとも何か事情があって俺が鈴音を部屋に連れ込んだのだと思わせやすいはずだ。
心優しい千鶴ならおにいちゃんがそんなチャラい大学生みたいなことはしないと信じてくれるはずっ!
俺は早速部屋の明かりを消して親父の寝室へと向かった。
親父の部屋と俺の部屋はちょうどリビングを挟んだ真逆の方向になる。
途中には千鶴の部屋があるので起こさないように静かに廊下を歩いて極力音を立てないようにリビングのドアノブを回すと──。
寝ていたはずの千鶴と鉢合わせしてしまった。