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「12歳の身分で親の庇護なしに生きられるほど世界は甘くないぞ」
「…道具として、生涯を終えるよりはマシです…」
迷いは無かった。
私は心底蔵人と言う男に、そして花菱の一族に失望し、あまつさえ怒りを感じていたのだ。
そしてそれに対する蔵人の答えはこうだった。
「そうか。ではお前の代わりを用意するとしよう」
父は私の顔すらも見ずに無感情にそう述べる。
「…何の…話ですか…?」
「常に不測の事態というものは予見しておく必要がある。──お前が出来損ないだった時のための予備は、あるのさ」
”お前が出来損ないだった時のための予備”
蔵人の言葉が反芻される。
出来損ないだった時のための予備…って…。
「最も当時は身体が弱く、花菱の一族としては不適格だと判断したのだがな」
まさか…まさか…! まさかまさかまさか!
「解りやすく言ってやろうか? お前には妹がいる」
声が出ないほどの衝撃だった。
私に…妹…。
そして、その妹は、私が逃げれば私の変わりに苦しむことになる…?
私の…姉の代わりに…!
そんなの…そんなのあんまりじゃないか…!
「何だ、今の今まで存在すら知らなかった妹が心配なのか? …下らない感傷だな」
私の様子を見て、蔵人は退屈そうにそう漏らす。
下らない感傷だっていい。
偽善というなら否定もしない。
だけど、私の運命を誰かに押し付けるのは絶対に間違っている。
そして名前も顔も知らない妹。
きっとそれは今となっては家族とも呼べない、他人以下の存在だ。
ただそれでも、もし私がその妹にたった1度でも何かをしてやれるのであれば。
姉として妹の運命を守ることが出来ると言うのであれば──。
花菱の駒として生涯を終えるのは意味がある事ではないだろうか?
私が産まれた、意味はあるのではないだろうか──。
「さぁ、どうする鈴音? 決めるのはお前だ」
蔵人からのその問いの答えはもう、出ていた。
「妹には……手を出すな……!」
強くハッキリと、そして真っ直ぐに私はそう言った。
「…やはりお前は優秀だよ」
そうして花菱蔵人はまた笑うのだ。
──冷たく、おぞましく。
~回想終了~