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私はただ、普通の「親子」として、かけがえのない「家族」として父さんと一緒にいたいだけなのに…。
想いの全ては言葉になってはくれなかった。
まるで言葉を失ってしまったかのように何も言えなかった。
「散々親類達から言われてきたことだろう。「お前は花菱の息女なんだ」と「総本家の次期当主なんだ」と「価値のある人間になれ」と。──それが出来なければ「落ちこぼれだ」と」
そうだ、ずっと言われてきた。
親類達にも父の部下にも幼い頃からそう言い聞かされてきた。
だから私は、そんな毒のような言葉を吐き続けるあいつらが大嫌いだった。
そんな大嫌いな言葉を、ずっと信じていた父親に言い捨てられる。
父は、蔵人は、あれほど嫌っていた親類達が同じように、冷酷で欲深く、「壊れて」いたのだ。
「忘れるな、お前の未来は花菱のためにある。花菱家の頂点に立つか落ちこぼれになるか、だ。…花菱にとって価値の無い子供など、要らん」
私はその時、蔵人の言葉に反論することも怒ることも、泣き喚くことすら出来なかった。
理解が、追いつかなかったのだ。
その事実を受け止めることが、出来なかったのだ。
「鈴音、何を呆けている?」
声が聞こえる。
「私からは以上だ、下がれ」
父の無感情なその声を聞いて、父が私の方を向いているのに気付く。
何か、何か言わないと。
何か言わないと…! このまま何も言えなければ、父の真意を問いたださなければ、私はもう誰も信じられなくなってしまう。
何でも良い。少しで良い。私の思いを、言うんだ。
からからに渇いた喉から搾り出すようにか細い小さな声で私は言葉を捻り出した。
「ち、父は、あなたは…わ、わたしを…あ、愛して…い、いないのですか…?」
それは、悲鳴にも似た問いかけだった。
泣いてしまいそうになるのを必死に堪えながら、それでも、どうしても信じられなくて、震える声で私は問いかける。
けれど、搾り出した言葉は一度出てしまうと堰を切ったように溢れ出して、もう、止まらなかった。
「わ、わたしの…わたしのことは、愛していない、のですか」
胸の奥が痛くなって、目頭が熱くなって、ずっと溜め込んできたその想いはダムが決壊したように溢れ出す。