表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度わたくしに妹が出来ました  作者: 犬塚猫蔵
3章・後編「妹と初めての姉」
102/163

4P

 私はただ、普通の「親子」として、かけがえのない「家族」として父さんと一緒にいたいだけなのに…。


 想いの全ては言葉になってはくれなかった。


 まるで言葉を失ってしまったかのように何も言えなかった。


「散々親類達から言われてきたことだろう。「お前は花菱の息女なんだ」と「総本家の次期当主なんだ」と「価値のある人間になれ」と。──それが出来なければ「落ちこぼれだ」と」


 そうだ、ずっと言われてきた。


 親類達にも父の部下にも幼い頃からそう言い聞かされてきた。


 だから私は、そんな毒のような言葉を吐き続けるあいつらが大嫌いだった。

 そんな大嫌いな言葉を、ずっと信じていた父親に言い捨てられる。


 父は、蔵人は、あれほど嫌っていた親類達が同じように、冷酷で欲深く、「壊れて」いたのだ。


「忘れるな、お前の未来は花菱のためにある。花菱家の頂点に立つか落ちこぼれになるか、だ。…花菱にとって価値の無い子供など、要らん」


 私はその時、蔵人の言葉に反論することも怒ることも、泣き喚くことすら出来なかった。

 理解が、追いつかなかったのだ。

 その事実を受け止めることが、出来なかったのだ。


「鈴音、何を呆けている?」


 声が聞こえる。


「私からは以上だ、下がれ」


 父の無感情なその声を聞いて、父が私の方を向いているのに気付く。


 何か、何か言わないと。

 何か言わないと…! このまま何も言えなければ、父の真意を問いたださなければ、私はもう誰も信じられなくなってしまう。


 何でも良い。少しで良い。私の思いを、言うんだ。

 からからに渇いた喉から搾り出すようにか細い小さな声で私は言葉を捻り出した。


「ち、父は、あなたは…わ、わたしを…あ、愛して…い、いないのですか…?」


 それは、悲鳴にも似た問いかけだった。


 泣いてしまいそうになるのを必死に堪えながら、それでも、どうしても信じられなくて、震える声で私は問いかける。

 けれど、搾り出した言葉は一度出てしまうと堰を切ったように溢れ出して、もう、止まらなかった。


「わ、わたしの…わたしのことは、愛していない、のですか」


 胸の奥が痛くなって、目頭が熱くなって、ずっと溜め込んできたその想いはダムが決壊したように溢れ出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ